ジェレミー・シーゲル「株式投資の未来」「株式投資」
日本では株式といえばトレードするものという固定観念があります。株をやっていると周囲に漏らせば多くの場合は「デイトレーダーですか?」という返事が返ってくることでしょう。
しかし,株式投資というのは本来は長期で優良銘柄を保有するというバフェット流こそが王道であり,短い足でのトレードや,フラッシュ・ボーイズのような超高速トレーダーは邪道と言えるでしょう。このバフェット流投資術の醍醐味を教えてくれるのがシーゲル教授の「株式投資の未来」「株式投資」の2冊です。
長期投資の王道
なぜ長期投資が株式投資の王道かといえば,保有しているだけで楽して儲かるからです。どれぐらい楽して儲かるかと言えば,下図が最も明瞭に長期投資のメリットを表現してくれています。株式市場に100年間投資した場合,年率6.6%の平均リターンが得られ,この値は債券(3.6%/2.7%)・ゴールド(0.7%)・現金(-1.4%)を圧倒しています。これは複利で増えていきますので,1802年の$1は,2012年の$704,997です。110年間で70万倍もの上昇です。極めて効率の良い投資先だと言えるでしょう。
長期投資本の中ではベテラン
「株式投資の未来」「株式投資」といった本は初版は1994年で現在はすでに初版から24年が経過している長期投資本の中ではベテランです。これだけの長期間にわたり増刷されてきたのは,株式が幾多のインフレーション・デフレーションに耐えて,企業が収益を上げ続けてきたからに他なりません。企業の収益は,企業の生産性に依存します。すなわち,米国企業は1世紀以上にわたり生産性を上げ続けてきたのです。
多民族国家で競争と資本主義の本尊である米国は,世界一のイノベーションの拠点として発展してきました。多くの優秀な移民と,安価な労働力を受け入れ,イノベーションで新たな需要と生産技術を革新し,さらに海外の販路を拡大すれば企業の生産性が上昇し続けるのは当然です。
バフェットが最も好む”永続的な競争優位“(エコノミック・モート)を国家に当てはめると,米国は世界最強のエコノミック・モート国家です。国際的な共通語”英語”によるモート(各国語へのローカライズが不要),国際的な基軸通貨”米ドル”による財務面でのモートも含めて考えれば,『英語 × 基軸通貨米ドル × 多民族文化』というイノベーションの’るつぼ’である米国は今後も発展を続けると考えるのが自然でしょう。現時点では米国に追従できる経済地域は存在しません。
以上の考察を踏まえると,米国株への長期投資・超長期投資はごく自然にローリスク・ハイリターンな投資戦略であることがわかります。トレードをしたくなければ,優良株への長期投資一択です。(要するにバフェット流)
ジェレミー・シーゲル教授の推奨する投資法は,ダウ平均に採用されているような古参銘柄(エクソン・モービル,フィリップ・モリス・インターナショナルなど)と米国以外の新興国株式への分散投資です。これはバフェット流の米国企業投資よりもさらに野心的で,世界の新興国の成長も取り入れようというポートフォリオ戦略です。私としては為替リスクをヘッジする目的で新興国への分散はありだと考えています。(通貨バスケット的な考え方ですね。)
バフェット流長期投資のメリットは,ほぼ「株式投資の未来」「株式投資」を読めば理解できると思います。
「株式投資の未来」「株式投資」の欠点をバフェット流で補う
本書の最大の弱点も記載しておきましょう。
ジェレミー・シーゲル教授の最大の弱点は「優良企業とは何か?」という定義が曖昧で,本書を読んでも優良企業(すなわち優れた投資先)を探し出すことは不可能に近い点です。シーゲル教授の本書での答えは古参ダウ銘柄を買っておけ(あるいは,ダウ平均ETFやダウ平均のオプションを買っておけ)ですが実際にはあまりに無茶でしょう。なぜなら,古参企業がモートを失うこともあるし,ダウ平均は近年に入ってモートを失いつつある企業も含まれるからです。
私はこの弱点を補填するために,NYSE,NASDAQ合わせて6000銘柄ある大手企業からバフェット流分析で最高の企業を選別するスタイルです。バフェット流分析なら10年単位での企業業績推移をチェックできるので,数年間衰退を続けるような企業に手出しをすることを防げます。本書だけを読んで,愚直に著名なダウ銘柄を買うというのは絶対避けてください。
モートを失いつつある企業に投資して,投資資金を塩漬けすることはバフェットが最も避ける方法です。(1967年にバークシャー・ハサウェイという名前の繊維会社を”割安だから”という理由だけで買収し,わずか数年で繊維業を廃業して従業員を解雇せざるを得なかったというバフェット自身の経験から来ています。それ以来,バフェットはモート・競争優位が強化されている企業が好きであり,モートが弱まっていると判断した企業は即座に売り払います。)
バフェット流×シーゲル流
バフェット流とシーゲル流を組み合わせると結論は一つです。
モートが年々強化されている企業だけを長期保有する。
この”企業選別眼”というテーマは,シーゲル教授の「株式投資の未来」「株式投資」をいくら読んでも身につかないので,別の書籍で研究することをおすすめします。
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