マーク・ダグラス『ゾーン』

マーク・ダグラスは自身のトレードでの過ちを相場心理学として体系化し,一人前のトレーダーになるための訓練の方法を編み出し,トレードコーチとして成功を収めた人物です。代表的な著作が多数ありますが有名なのは『ゾーン − 相場心理学入門』『ゾーン− 最終章』の2冊です。

パーフェクト・ストーム

本書を手に取る前にジョージ・クルーニー主演の映画「パーフェクト・ストーム」をまずは観てみてください。YoutubeやAmazon Videoなどで300円ほどでレンタルして観ることができます。

なぜ投資の本を読む前に映画なのか?

まず,パーフェクト・ストームとは1991年に米国で実際に起きた大嵐による漁船の海難事故・救助活動(実話)をもとにした映画です。

この予備知識があるのと無いのとで,本書を読み進める上での緊張感がだいぶ異なります。

本書ではトレーダーが大儲けしたあとに大損するのは,漁師たちが空前の豊漁に恵まれたにも関わらず突然歯車が狂い始めて「パーフェクト・ストーム」に直面するのと同じと喩えられています。私もこの比喩を見てハッとしました。相場でも漁と同じく,大漁(大儲け)のときも不漁のときもありますが,大漁だからといってリスクが去ったわけではなく,むしろ巨大なリスクと背中合わせなことも多いのです。

規律と訓練

投資家というのは,調子のいい時に自惚れてユーフォリアに浸り,そうした時ほど精神的には脆弱で判断をミスしてしまう確率が高いです。相場が好調なときこそ保守的で客観的な判断が必要であり,ミスを防ぐための『規律』を身につけるためには何百回というトレードの訓練が必要だというのが『ゾーン − 相場心理学入門』『ゾーン− 最終章』の最も重要な教えでしょう。

投資家・トレーダーというのは,今や入金してボタンをクリックするだけでいい時代になりました。かつて私が投資を始めた頃と比較すると大いに簡素化されています。しかし,どれだけ手数料が安くなり,簡単にトレードできるようになっても”訓練”は必要です。

どれだけ便利な調理家電が出てきても,毎日実際に様々な調理をしてみないと料理の腕は上がらないのと同じだと言っていいでしょう。調理をせずに楽して済ませたい人々(例えば,冷凍食品とかカップ麺ばかり食べている人)が,優れた料理人になれるはずがありません。

トレード・投資についても同じことが言えます。

心得

本書の教えとなる心得を何点かピックアップしておきましょう。

  1. トレードで”継続的に”成功を収めるには規律が必須。
    だから,規律を身につけるための訓練が必要。それも,100回ぐらいは訓練しないと身につかない。
  2. どれだけ分析を重ねたとしても,リスクを下げることはできない。
    だから,損切りが必要。
  3. どれだけ勝ちが濃厚なセットアップでも,リスクを下げることはできない。
    だから,ポジションサイズの管理と損切りが必要。

どれも一言で言えば当たり前のことしか書かれていません。

ですが,もし過去に気が緩んで大きなポジションを取った時に限って,相場が反転して損が拡大するというような経験をしたことがある方は本書を何回も読み返した方がいいでしょう。必ず仕掛けの時の「規律」に欠陥があるはずです。(自分では管理しているつもりでも,管理しきれておらず,必要以上にリスクを取ってしまっている。)

損をする原因は,分析が不十分だとか,運が悪かったりだとか,能力が低かったりではありません。(もちろん,影響はありますが。)

どれだけ優れた腕のトレーダーでも”常に”損をしています。しかし,凡庸なトレーダーとの大きな違いとして,優れたトレーダーは損をすると同時に,必ず損を小さく抑え,リターンが大きくなるようにポジションサイズ,売買タイミング,リスク・リウォード・レシオを管理できているために,常に大きな儲けが出ているように見えます。

まとめ

結局のところ,生半可な努力では,相場で生き残り続けることはできません。

これは私がジェレミー・シーゲルの「株式投資の未来」の紹介で書いた”株式投資への長期投資は楽して儲かる”という話と相反しますが,マーク・ダグラスの言う”相場には規律が必要”と言う教えの方がシーゲル本よりもはるかに実践的で役に立ちます。(だから,マーク・ダグラスの本書を上位にランクインさせています。)投資先としてはシーゲルのいう通り株式市場は最高ですが,それだけでは大損をするリスクは避けられないからです。

私は長期投資家でありつつも,常にマクロ金融政策とミクロな相場の値動きをウォッチし,変な雨雲・雷雲が出ていないかを観察しています。(パーフェクト・ストームが嫌なので)

このやり方は私が尊敬する春山昇華氏も実践しておられる方法です。春山昇華氏は各国金利・GDP・株価・セクター・センチメント・労働市況・政府要人コメントに到るまでを毎日チェックされています。ご存知のように春山昇華氏は決して,”トレーダー”ではなく”投資家”です。

バフェットもそうです。バフェットは11歳の頃からコカ・コーラなどを売って儲けた金で株の売買を行なっていましたし。レイ・ダリオもゴルフのキャディーをして稼いだ金を10代から投資していました。両者とも若い頃から株式や商品市場を調査し,大損や失敗の中で学び,それぞれの投資法の弱点を克服してきています。優れた投資家は,行き着くところ優れたトレーダーと同じことしかしていません。すなわち,売買頻度の少ない投資家であろうと,こまめに売買を行うトレーダーであろうと,相場で生き残るには,規律を守り,自分の感情をコントロールし続けることが必要です。

チャーリー・マンガーがバフェットを”Warren is one of the best learning machines on this earth.”(ウォーレンは地球上で最高の学習機械だ)と称したことがありました。同感です。トレーダーだろうと,投資家だろうと,バフェットと同じく”forever learning machine”(永遠に学習する機械)でありたいものです。

欠点

ゾーン − 相場心理学入門』『ゾーン− 最終章』の書籍としての難点は,編集の悪さに尽きるでしょう。ほぼ同じ内容が何章にもわたって繰り返し書かれています。もし本書に興味を持たれた方はあらかじめ”冗長さ”を覚悟して,重要な箇所だけピックアップして読むことをお薦めします。

そうすれば,トレーダー心理学ジャンルの類書の中では抜きん出て実践的な本だと思います。

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