“The Everything Bubble”(エブリシング・バブル)

2017年10月に発売され米国でベストセラーになっている『The Everything Bubble』 (Graham Summers著)を読みました。その名の通り今の株式や債券など『あらゆる投資商品のバブル(エブリシング・バブル)』に対して警鐘を鳴らし,さらにそのバブル崩壊に備えよという一見するとよくある”トンデモ本”系に見えます。しかし,中身は手堅い内容で,現在のアメリカ経済が新たなバブルを作ることによって経済システムを回しており,しかもそのバブルの規模が,ITバブル(2000年),住宅バブル(2007年),そして「エブリシング・バブル」(2018年)へと進むにつれて天文学的な規模にまで膨れ上がっている実態を詳細に描いています。

洋書ですが図解も多く分かりやすいので,数年〜10年ぐらいのスパンで米国金融ウォッチしたいと考えている方には良書です。

すでに各国の経済規模は「Too big to control(大きすぎてコントロールできない)」の状態に陥っています。我が国日本でも同じで,日銀が国債新規発行分の半分を買い支え,さらにETFやREITによる株買いで証券価格まで釣り上げ,すでに日本のGDPの9割の規模までバランスシートが膨れ上がっています。ゼロ金利どころかマイナス金利(日銀当座預金にプールした資金に対して課金)にすることで,①短期金利マイナス,②長期金利は長期国債買い入れによって下落操作するという二重のコントロールを試みて久しい状況です。

米国FRBが次にやろうとしていることは,まさにこの日銀の金融政策であり,おそらくさらに巨大な規模でやるだろうというのが,グラハム・サマーズ氏の読みです。

もちろん,今日明日FRBがそのような政策を採るわけではありません。スパンとしては数年後,それも今のエブリシング・バブルが派手に崩壊し,あらゆる証券・債券が叩き売られシステミックリスクが顕在化した後にはじめて,とっておきの緊急施策が発動することになります。

緊急施策の目的は「金融システムから金を引き出せないようにすること」「安全資産である現金に逃げたいというインセンティブを封じること」にあります。

エブリシング・バブル崩壊後

例を挙げて説明しましょう。

バブル崩壊後はどこの国であれ必ず財政出動によって溢れかえった失業者への直接的な支援や,倒産寸前の企業への財政的な支援を行います。要するにバブル崩壊後は巨額の赤字国債が発行され,債券の供給が天文学的に増加します。(今の日本でもそうです。)

こうした国家財政の危機は当然,ドル不安や米国債不安となって金利上昇へとつながります。しかし,この金利上昇が曲者で,すでに借金経済である米国は昔は耐えられた5%の長期金利に今は耐えられません。利息分を支払うだけでも負担が大きすぎるからです。

そこでどうするか?

中央銀行が余剰の米国債を全て買い支えるしかありません。最後の買い手が中央銀行になるわけです。

しかし,それだけでは足りません。システミックリスクを感じ,リスクオフに動こうとする機関投資家・個人が大きければ,金融システムから金が抜けていき結果として経済危機・システミックリスクが大きくなるためです。リスクオフがリスク拡大に繋がるというポジティブフィードバックが働くのを止めなければ,金融危機は収まりません。

再度,そこでどうするか?それが本書で描かれている10年後の姿です。

  • マイナス金利(日銀・ECBで実施済み)
  • 国債買い入れ(FRBで実施済み)
  • 株式買い入れ(日銀で実施済み)
  • 高額紙幣の禁止(インドで実施済み)
  • 高額現金支払いの禁止(ヨーロッパ諸国で実施済み)
  • 資産課税(資産を持っているだけで課税)
  • キャリー税(carry tax)

マイナス金利というのは最終的には銀行の負担が預金者の負担に転嫁され,銀行口座に預金しているだけで目減りするという「現金課税・預金課税」の性質を持ちます。それなら,預金を引き出したいと思うのが預金者の考えですが,そこを封じるのが高額紙幣禁止と高額現金支払いの禁止という二つの法律です。$100などの高額紙幣を禁じ,さらに市中での決済手段としても使えなくすることで,面倒だから預金は引き出さないでおくように誘導するわけです。

これが「金融システムから現金という形態で金を抜かせない」ための政策です。

また,国債買い入れ・株式買い入れはバブル崩壊後の資産価格の暴落を,中央銀行が全てファイナンスすることで買い支えるというものです。すでに日銀はインフレターゲッット政策の一環としてやっていますが,米国でもいずれこうした超ド級のQEが発動することになるでしょう。

また資産課税という「豊かな市民から国家にファイナンス」させ,大量発行された国債により信頼が揺らぐ国家財政を支えるための歳入増が狙いです。すでに資金の移動の手段を封じられているため,多くの人は課税逃れができません。現金で保有できなければ,電子的な手段でしか資金を移動できず,電子的なキャッシュは国家から捕捉しやすいというのも資産課税から逃れることが難しい原因の一つです。

また,キャリー税というものも検討されており,時間が経過するにつれて現金の価値が目減りするという方式も考えられています。こればかりはFRBの論文内でしか出てきておらず,実現は難しいと思いますが。

まとめ

直近では好景気が続いており,今の債券バブル,ETFによる株式バブルの崩壊の兆しはありません。しかし,QTによりFRB, ECB, BOJの三大中央銀行の資金供給が2019年にはマイナスになり,その時にはイールドカーブのフラットニングや逆イールドに先立ってクラッシュが来ると私は予想しています。(従来2回のクラッシュは,逆イールド後でしたが,今はさらに強烈なバブルなので脆いと見ています。)

となるとクラッシュは最短で2019年ごろになる可能性があると思いますが,その時はまだエブリシング・バブルの崩壊というよりは,ここ数年の上昇分を吹き飛ばすだけで済むと思っています。このミニクラッシュ時に,マイナス金利や量的緩和は当然ながら過去最大規模で実施され,そして救済された可能ように見えるでしょう。

その油断が問題で,さらに大きなバブルが発生し,2020年代前半になって初めて本書に描かれたようなエブリシング・バブル崩壊と,クラッシュ後の政策(現金禁止や資産課税など)が実現すると思っています。

このクラッシュの道を防げるとすれば,今後数年間にテクノロジーが急速に進化し,生産性が劇的に向上し,実体経済がバブル経済に追いつくことぐらいしか考えられませんが,テクノロジーの発展にそこまで期待するのは難しいでしょう。

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