トルコリラとトルコ中央銀行と金準備

2018年4月11日よりドイツのブンデスバンク主催のGold展示会が開かれており,にわかに各国中央銀行のGold需要に注目が集まっています。Goldは数千年前から国際的に流通する通貨として信任されており,民族・王朝・政府が何度となく滅びようとも輝きを保っています。

そして,このGold倶楽部にトルコも加わろうとしています。

トルコ中央銀行(CBRT Central Bank Of Turkey)

トルコは2018年3月までに米国FRBに預けていた$25.3Billion(220トン)相当のGoldを全て回収したと発表しました。これだけに留まらず,トルコ国内の主要な民間銀行も海外に預けていたGoldを回収して回っているとの報道が流れています。(#トルコ国内の新聞Milliyetより)

この発表は先日のブンデスバンク(ドイツ中央銀行)のお祭り騒ぎの直後だっただけにタイムリーな印象を受けますが,2011年から始まるGold本国送還運動(#Wikipedia Gold Repatriation ゴールド・レパトリエーション)の一環だと考える必要があるでしょう。

特に欧州ではPIGGS諸国の財政破綻問題が顕在化し欧州危機が騒がれた2013年ごろに欧州の主要な中央銀行は金準備(Gold Reserves)が通貨の信任に必須だと考えるようになりました。それはドルで外貨準備を持っていたとしても,いざという時に減価するリスクがあり,またFRBにGoldを預けいれていたとしても手元になければ役に立たないことを身を以て知ったということでしょう。(例えばトルコなどのような国々では,米国との緊張が高まれば言いがかりをつけられて経済制裁対象にされ,FRBに預けいれていたGoldの移動を制限される恐れあり。)

このGoldレパトリエーションの流れに乗り本国送還を決めた中には以下のような国々が含まれます。

 

オランダといえばかつて世界の通商を支配した金融・海運国家で,かつては英国に経済覇権が移る前はユダヤ商人に宮廷の財務を任せていた屈指の金融リテラシー国家です。

また,ドイツといえば2度の世界大戦敗戦国で煮え湯を飲まされてきた経済大国です。特に第一次世界大戦後のワイマール共和国では過酷な損害賠償を求められ,さらには1923年には半ば言いがかりでフランス・ベルギーから経済の中心であったルール地方を占領され,敗戦から復興中の経済をボロボロにされ,そして最後には天文学的な1兆倍のインフレを経験した経済敗戦国です。いわば戦争に負けたのちに(フランスによる復讐で)経済的にも2度目の荒廃した歴史を持つということになります。

以下の写真のようなインフレを体験すれば「いっときの政府・政権の発行する紙幣」になんら信任を置かなくなるのも理解できます。

トルコでの金準備推奨

トルコ中央銀行(CBRT)のブログを見るとこれまでのGoldにまつわる政策の推移がわかります。

上の表から明らかなのは,トルコは中央銀行が直接保有する金準備だけを政策の対象としているのではなく,民間銀行に外貨準備の10%をGoldで持つことを許可しているということです。許可と言ってはいますがROM(Reserve Options Mechanism)と呼ばれる制度でトルコリラ準備に対する一定比率を外貨+Goldで保有せよと推奨しているに等しいでしょう。Reserve Options Mechanismについてはトルコ中央銀行の論文(本リンクからPDFが読めます)で詳しく解説されています。

これは為替変動が極端に激しいトルコリラならではの防衛策と言えるでしょう。中央銀行だけでは通貨の安定性を担保できないため,民間銀行が自発的に自分の身を守れと言っているわけです。(#それだけ国際的なFXマーケットが巨大で投機的な資金の動きで1カ国の通貨が崩壊するリスクがあるということ。)

ROM is basically a mechanism that allows banks to keep a certain ratio of their Turkish lira (TL) reserve requirements in foreign exchange (FX) and/or gold. The fraction of TL required reserves that can be held in FX or gold is set by the reserve option ratio (ROR). The amount of FX or gold that can be held per unit of Turkish lira is called the reserve option coefficient (ROC). For example, if the ROC is 2, banks have to hold 2 liras worth of FX or gold per 1 TL reserve requirement if they wish to utilize the ROM facility.

トルコリラに対して一定比率をFX(外貨)またはGoldで保有することを許可する。ROC(Reserve Option Ratio)が2なら,1トルコリラ準備に対し2トルコリラ相当の金額のFX/Goldを保有して良い。

10年で対米ドルに対して1/4にまで減価したトルコリラ。

金準備

金準備比率を高めているのは,トルコのように為替弱小国だけではありません。米国でさえも外貨準備の75%はGoldです。またドイツ,イタリア,フランス,オランダなどEUの主要国家は皆60%以上のGoldで外貨準備を確保しています。(欧州にとっては自国通貨はユーロ,それ以外が外貨準備となる。)

以下の表を見ればわかる通り,中国・日本・インドなどアジア諸国の中央銀行では外貨準備全体に対するGoldの比率が極めて低く,中国では2.3%,日本では2.5%しかありません。これは過去数十年にわたって,貿易黒字で手に入ったドルを米国債の購入に充てて通貨を安く抑えようと努力した結果,外貨準備の多くがドル(米国債)になってしまっているためです。中国は世界最大の米国債保有国であり,日本は2位につけていることからもわかる通り,ドル基軸体制に最大限適応した2カ国ならではの特徴だと言えるでしょう。

日中どちらも輸出に大きく依存する体質であるため,為替高=輸出産業の不況へ繋がることを恐れてドル還流を意識的に行ってきましたが,ここにきて米中貿易摩擦やトランプによる人民元切り上げ圧力が厳しくなってきました。まだ具体的な政策や外交紛争には至っておらず関税・為替レート操作含めて舌戦の域を出ないですが,本格的に米中の摩擦が激化した場合は米国債の売却というカードが切られる可能性があります。

その場合,中国は米国債を売りユーロやGoldを買うことになるでしょう。ドルの切り下げになった場合,もっとも被害を受けるのは対外債権をドル建てで保有する日本です。対外債権価値の減価という形で巻き添えを食らうことも覚悟する必要があります。個人投資家としては,ドルと逆相関の高い日本円,そしてGold, Silverなどへのヘッジを意識してトレードする必要があると思います。

まとめ

  • ここ10年のトレンドとして,中央銀行によるドル買いが増加している。(ロシア,中国,メキシコ,インド,トルコ)
  • また,米国FRBへの信用が低下し,Goldのレパトリエーション(本国送還)運動が盛んになっています。(ドイツ,トルコ,オランダ,ベルギー,ベネズエラ)
  • 日本・中国のGold保有比率(外貨準備に対するGoldの比率)が極めて低いですが,中国は最近になってGold購入を増やしています。
  • この大きな流れが意味するのは,長期的に見てドル信認低下・ドル離れ。#de-dollarization
  • 特に2018年に入り中国は人民元建てで原油を購入できるよう上海国際エネルギー取引所(Shanghai International Energy Exchange : INE)を設立。まだ取引規模が圧倒的に小さく世界シェアの6%の取引量しかないですが,WTI, Brentに続く石油市場を目指しています。
  • この石油市場設立の目的は,人民元をペトロユエン(Petroyuen)と呼ばれる国際決済通貨にすること。(#ペトロダラー Petrodollarの対抗馬)
  • かつて日本が日本円建てで原油輸入を目指した時は米国に潰されましたが,今の米国にはそこまでの支配力・強制力はありません。
  • 国際的緊張(貿易摩擦・経済制裁・関税など)が高まれば,ドルの国際決済通貨としての価値が減価する可能性が高いです。(双子の赤字も含めてリスクが高い。)
  • ドル減価に対するヘッジを今から数年間かけて高めていく必要があります。
  • 今のところ,日本人にとっては流動性の高い順に日本円・GoldSilverがヘッジ手段として有力です。

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