バフェット流投資の真髄

先日のバークシャー・ハサウェイの株主総会は夜遅くまでみなさんがご覧になったようですね。

多くの投資家にとってはバフェットの変節が最大の注目ポイントだったと思いますが,一方で私にはバフェットの変わらぬ部分も発見でき,大いに収穫のある3時間でした。

バフェットは見えていない

株主総会で中国人から中国株についての意見を聞かれたバフェット・マンガーは,共にまともな返事ができてませんでした。マンガーは「米国株に比べて中国株は安い」と一言だけ。残念ながらバフェットやマンガーは中国の急成長をまだ体感できていないのだと思います。

このやり取りの中で私の脳裏に確信めいたものが浮かび上がってきました。

バフェットの目には2000年代の中国の成長も,1990年代のIT企業の成長と同じく,”動体として見えていない”ということです。まさかと思いますが,目の前にフェラーリが走ってきて,早すぎて見えないのと同じような感覚では無いかと思っています。

つまり,ビューと何かが通り過ぎたことを認識はするが「見えていない(投資脳で認識されるレベルの具体的な現象として捉えられていない)」のでは無いかと。

バフェット投資術の真髄

私はバフェットの投資の真髄について研究を重ねてきましたが,バフェットの投資の真髄は『積分』にあると感じています。コカ・コーラ(KO)の広告宣伝のようにはるか昔から積み重ねられた信頼と実績とのれん価値を重んじ,タンカーのように慣性で進み続けるような企業を選ぶという方法です。積分的で帰納的な投資という意味ではバフェットの右に出る投資家は少ないでしょう。

一方でバフェットが絶対にやらないのが『微分』です。これは成長率や変化率の大きさに重きをおく方法であり,場合によっては直近の「1年間」「1四半期」の変化の勢いに着目し,そこから将来の可能性を掘り下げていく演繹的な方法です。四半期ごとにその予測をこまめに微修正していく必要があるので気疲れしますが,一方で投資として楽しいのは断然『微分型』投資です。

「積分」「微分」どちらが優れているかというのは,イデオロギーの話になってくるので優劣は議論しませんが,少なくともバフェットは自分がどちらの判断能力が高いのかを正確に理解しており,頑固なまでにストライクゾーンを狭めているように見えます。

例えば先日,「アマゾンやグーグルを買わなかったことを後悔」したバフェットも,インテル(INTC)のIPOの際に出資しなかったことは全然後悔していないようです。インテルの創業者ボブ・ノイスらはフェアチャイルド・セミコンダクターから離脱し,1968年にインテルを創業したのですが,その際にウォーレン・バフェットにも声をかけ断られています。そして,それから半世紀たった2011年にやっとインテルを購入し,2012年に売却しています。(これもバフェット本人の判断というよりは,バークシャーのコームズ氏などが斡旋したと言われていますが。)

歴史にifを言っても仕方がないですが,「可能性」には投資しない,「実績」に投資するというという意味で,バフェットは昔も今も全然変わっていません。つまり,最近になって耄碌したり,IT技術に着いていけなくなったわけでは全くないのです。1968年当時からテクノロジーへの理解が本当に遅く,インテルにせよIBM,アップルにせよ創業から半世紀が経って莫大な成長期を通り過ぎ,誰もが完全に理解している優良銘柄に育ってから手を出しています

呆れるほど遅いですね・・・。

タイミングを計るとか,絶好球を狙うとか,そういう次元の待ち方じゃありません。異次元の遅さです。

見えないメリット

バフェットの投資脳が異常に時間分解能の悪いカメラだとすると,確かに世の中の変化はバフェットのカメラには何も映り込みません。バフェットカメラのネガに捉えられているのは,「ゆっくりと50年かけて成長する樹々」のみであり,「高速で行き来する昆虫や動物」は映ってさえいないのです。

そう捉えると面白いことが見えてきます。

天文写真をとる方ならご存知のように,シャッタースピードを限界まで遅くし,黄道儀で何時間もかけてカメラを動かして星空を観測します。そうすることで初めて,真っ暗な夜空のゆっくりした動きを写真に撮ることができるのです。

ハチドリの動きを撮影可能なハイスピードカメラと,天体の動きを撮影するスロースピードカメラを比較するのはナンセンスです。

それと同じように,バフェットがアマゾンに投資しなかったことを後悔したと発言したからと言って,それを真に受けるのもナンセンスです。どうせバフェットのカメラではITバブル期の創業であるグーグルやアマゾンは速すぎて撮影できない対象なのですから,無い物ねだりです。グーグル創業期にGEICOを通じてグーグルを知り得る機会はあったとしても,投資に踏み切ることはまずできなかったと思います。

逆にこのシャッタスピードの遅さを最大限に活用して,リーマンショックのような激変期を冷静沈着に乗り切ることができるのがバフェット流の最大の強みだと思います。また,遅すぎてみんなが気づかない変化を見極めるというのもバフェットにしかできない強みですね。ハチドリの羽ばたきしか映っていない写真もツマラナイですから。

もう一つ,バフェットの強みは「制度」に強いことです。税制であったり,規制であったり,会計ルールであったりと言った相場全体のルールをバフェットは深く理解しています。

バフェットがIBMを「今年」売り払うのも制度的に有利だからです。それ以上でもそれ以下でも無いでしょう。常に自分の得意とする能力(遅いものを捉えるスローカメラと,相場のルールへの深い理解)を駆使して90歳になろうという今でも現役で活躍するというのはやはり化け物だと言えるでしょう。

ですが,バフェットの言動を見ていて,間違ってもバフェット流の投資判断基準を成長の早い銘柄(IPOして1〜2年の超成長株ならなおさら)に適用してはいけないというのを身にしみて感じた1日でした。

8 thoughts on “バフェット流投資の真髄

  • 2017年5月13日 at 7:46 PM
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    ご無沙汰しております。

    管理人様の視点が斬新で、いつも感心してしまいます。
    積分・微分とか面白いです。
    当方も去年からブログ村でブログを始めました。

    本業もあるので2日おき更新くらいの頻度ですが、ブログを書くことで記憶の定着やその時思ったことの記録に役立っています。

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    • 2017年5月14日 at 7:29 PM
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      ペンブルックさん
      コメントありがとうございます。
      ブログ村の住民になられたことは以前から薄々気づいていましたがやはりそうでしたか。
      中小型株に着目している方は貴重なので参考にさせてもらっています。

      もしよかったら以下のサイトにバークシャー議事録が掲載されているので参照ください。
      90過ぎても学習し続けているバフェットとマンガーには驚きです。
      https://novelinvestor.com/notes-2017-berkshire-meeting/

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  • 2017年5月14日 at 9:09 PM
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    はじめまして。
    興味深く、記事を拝読しました。

    積分と微分の例えは、言い得て妙ですね!

    成熟したものを好むバフェットが、若い企業へ投資をする姿は想像できません。
    仮に15年前に戻ってバフェットを説得しても、決してAmazon,Googleへ投資をすることはなかったと思います笑

    徹底的にキャッシュフローを追求した結果、投資先がなくなるという所まで到達してしまったのがバフェットの凄みですね(バークシャーが配当を出すかもしれないとのことです)

    1点、「IBMを今年売却したのは制度的に有利なため」とのことですが、よろしければ詳しく解説していただけませんでしょうか?

    IBMの売却は、
    ・自社株買い利回りの減少
    ・成長分野に投資することへのリスク

    という観点からしか見ておりませんでした。

    なにとぞ、よろしくお願いします!

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    • 2017年5月15日 at 9:48 PM
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      ヤムチャ投資家さん
      バークシャーは今年IBMに限らずいくつかの銘柄を外してくると思っています。
      先日の株主総会でトランプの税制改革について触れており,その中で
      “We would rather take losses than gains because of the tax effect,”
      と述べていました。
      この理由は,早ければ来年にも減税となるため,利益に対して課される税率が低くなります。
      これを裏返すと,来年に損を出したとしても,損益通算での控除が来年は少ないと言うことになります。

      では,今年,損を出せばどうなるか?
      当然,今年の高い法人税率に対して控除(利益-損失で相殺)されるために,
      国庫に税金を納める額が少なくて済みます。

      もちろん,これは「今年のバークシャーの決算書に,確定損が記帳される」ことなので,
      income statementは悪化します。でもバフェットはそんな単年決算なんて気にしないので,
      今年売るのが長期的にみてもチャンスと思っている,と言うレベルの話です。

      IBMを今すぐ叩き売りたいと言うわけではないのでご注意ください。どうせいまいちでいずれ売るなら今年12月まででしょ,と言うノリです。

      日本ではあまり米国の税率について関心が高くないので,(せいぜい米国内配当課税ぐらいでしょうか),
      注目度は低いようですが,以下の記事にも書いたように,私は秋口の米国人・米国ファンドの動向を警戒しています。
      http://forever-investor.com/sector/informationtechnology/buffett_loss_cut/
      (バフェット流損切り術と言うより,「バフェットが合理的だと考える節税術」ですね。)

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      • 2017年5月18日 at 1:36 PM
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        分かりやすく解説していただき、どうもありがとうございました!
        リンクの記事も拝読させていただきました。

        税制の歪みをついたバフェット流節税術!
        早期の税制改革を見越しているんですね。
        税率にもっと関心を払うべきでした。足元がおるすになってましたw

        IBMはやや高値で売り抜けたとの話もありますが、その他の銘柄の動向とあわせて長期的に考えなければダメですね。。

        今年のバフェットは特に注目したいです。

        豊富な知識かつ合理的な思考でまとめられた管理人さんの記事は、とても勉強になります。

        今後も楽しみにしております!

        Reply
  • 2017年5月15日 at 8:55 PM
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    情報ありがとうございます。

    こちらこそ、参考にさせていただいておりますので、資産運用お互いに頑張りましょう。

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  • 2017年5月17日 at 10:09 PM
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    ここ最近、米国株が過熱気味というブログが出てきています。
    (確かに米国株投資ブログが増えてきているのも気になります。)
    これは加熱しすぎということなのでしょうか?
    管理人さんはどう思われますか?

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    • 2017年5月17日 at 10:48 PM
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      凍死家さん
      米国株全体を見渡してみると,やや過熱気味かも知れませんが,
      少なくとも私のウォッチしている銘柄は,予想をいい意味で裏切る好業績が多いです。
      という意味では景気循環のピークに位置する業績相場と言ってもいいのではないでしょうか。(金融相場ではない)

      また,米国株投資ブログが増えたのは,敷居が下がったためだと考えています。
      証券会社の各種キャンペーン(ポイントサイトなど)で口座を開設して株を始める人が増えているようです。

      Reply

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