バフェットとモート

エコノミック・モート(経済的な堀)という概念は企業の競争優位を要塞の堀に喩えた言葉です。

今回,モート愛好家であるバフェットが,どういう基準でモートを定義しているのかをまとめたいと思います。バフェット本は1冊だけ読んだことがあるのですが,その中では全然モートについて触れられておらず参考になりませんでした。

そこで,1977年〜2015年までの『ウォーレン・バフェットの株主への手紙』を調査対象としました。

また,モートという概念自体は,モーニングスター社が企業評価の指標として導入しており参考にされている方も多いと思います。モーニングスターがどういう基準でモートを定義しているかは,過去のエコノミック・モートの記事で書いていますので参照ください。バフェットに比べてモーニングスターの方が指標の定義が具体的・定量的です。

登場回数

“moat”という語が株主への手紙の中に登場したのは,合計28回でした。バフェットがしきりにモート,モートと書くようになった時期と言及した企業名も重要なので以下の表に加えました。

年度 回数 特定の企業への言及
1986 3 GEICO
1993 1 Coca-Cola, Gillette
1995 2 GEICO
1996 1 GEICO
2005 3 言及なし
2007 8 GEICO, Costco, Coca-Cola, Gillette, American Express, Mayo Clinic
2008 1 言及なし
2011 1 NetJets
2012 2 言及なし
2013 2 GEICO
2014 2 GEICO
2015 2 GEICO

ここで全部翻訳するのは大変なので『株主への手紙』原文をチェックしていただきたいですが,バフェットにとっての最高のモート企業は保険会社であるGEICO(ガイコ)だということがお分かりいただけると思います。

GEICO

初めてモートという言葉が登場したのは1986年のことですが,その時からバフェットはGEICOのコスト削減努力を高く評価し,競合保険会社と比較して「貴重なビジネスの城を守る,ある種の堀」がある企業だと述べています。

それから30年。

2015年にもGEICOについて「GEICOの低コストな体質が,競合が飛び越えることができない堀−それも永続的な堀−を作っている」と述べています。1986年と全く変わらず低コスト体質を維持し続けており,バークシャー・ハサウェイにとってのコア事業であると絶賛しています。

バフェットにとってGEICOは人一倍思い入れの深い銘柄です。バフェットが20代の頃,GEICOの社屋に押しかけて企業の業績について説明を受けて気に入り,当時からずっとポートフォリオの一角を占めていました。最初の投資時期から数えて60年近くの付き合いであり,生涯保有,いや永久保有銘柄と呼ぶにふさわしい企業です。

バフェットにとってのモートとは,GEICOのように,常に競合よりも低コスト体質を維持し続けことができる経営陣と企業文化を抱えた企業であると言えるでしょう。

その他の企業

バフェットがモートについて記載しているのは28回ですが,そのうち半数以上はGEICOについてです。GEICOをモート指数100点満点だとすると,その他の企業は満点ではないということが言えると思います。

ですが,バフェットが「モート」として認定しうる最低限の幅を満たしているとは考えられるために,各企業を見ていきましょう。

コカ・コーラとジレット,アメリカン・エクスプレス

コカ・コーラ(KO)とP&G傘下のジレットの2社はともに,1993年,2007年の2回にわたってモート企業だとして取り上げられています。

2回とも「世界的に市場シェアを伸ばしている強いブランド」をモートの理由としてあげており,「製品の特徴やグローバルな流通システムが競争優位を生んでいる」として高く評価しています。アメリカン・エクスプレス(AXP)も同等の評価です。

コストコ

コストコ(COST)は2007年の1回だけしか登場していませんが,GEICOと同じく低コスト体質な点がモートの理由として挙げられています。バフェットは昔から不必要なコストを極端に嫌っており,低コストで収益を維持できる企業を好んでいます。

メイヨー・クリニック

メイヨー・クリニックは米国No.1の病院だと名高い病院の運営母体です。

バフェットがメイヨー・クリニックを好むのは「たとえCEOが誰だか知らなくても,メイヨー・クリニックがいい病院だというのはみんなが知っている」という,優れた経営陣に頼らずとも病院の経営がうまくまわるだけの組織・文化が培われている点です。

一人または少数の経営陣に依存するモートであれば永続性(endurance)の面で不安が残るというのが,バフェットが学んだ教訓の一つです。

ネット・ジェッツ

ネットジェッツはプライベートジェット機を運用する航空会社で,バークシャーハサウェイ傘下企業です。地域としては米国・欧州・中国の3地域で運用されています。基本的に大富豪の移動用なので,その他の面積の狭い地域,あるいは大富豪があまりいない地域ではビジネスが成り立たないのかもしれません。

株主への手紙に目を通していると,ネットジェッツの強みは「安全,サービス,セキュリティが約束されたブランドであること」のようです。ただし,財務的に強固なわけでもなく,バフェットが信頼している企業ではなさそうです。

まとめ

バフェットのGEICOびいきは他の銘柄とは雲泥の差があります。最近,パワーハウスという呼び名で現在投資している企業を総称していますが,永久保有銘柄であるGEICOに対する信頼はそれらの投資先とは別格と言えるでしょう。

バフェットにとって,コアとなっている事業はそれほど多くなくバークシャーの売上の7割以上がGEICOをはじめとする保険部門です。さらにバフェットが投資をおこなうための”フロート”も提供してくれるとなれば,いくら感謝してもしたりない”打ち出の小槌”ということでしょう。

ただし,日本の投資家にとって残念なことに,GEICOはバークシャー傘下企業であり,決算の詳細があまり良く見えません。バークシャー・ハサウェイという持ち株会社が巨大な保険・再保険会社であることは分かるのですが,GEICOのような各部門の長期的な業績を分析するというのは至難の技です。

日本に住んでいるとトカゲ(GEICOのトレードマーク)を目にすることがほとんどありませんし,契約するなんていう機会は留学・移住でもしなければありえないでしょう。ですが,バフェット流を理解するためにはまずはGEICOから,ということで次回GEICOがここ50年間どのように業績が推移してきたか,そしてバークシャー・ハサウェイ内でどういう役割を担っていたかを精査しようと思います。

 

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