イーロン・マスクの金の匂いを嗅ぐ力

私はイーロン・マスクはビジョナリーだとは思っていません。多少ひいき目に見て,凡百な理想主義者というところでしょうか。

しかし,1点だけイーロン・マスクについて高く評価しているポイントがあります,それは資金繰りに関しては並外れた嗅覚があるということです。Wikipediaを見てみましょう。

1995年に高エネルギー物理学を学ぶためスタンフォード大学の大学院へ進むが、2日在籍しただけで退学し、弟のキンバル・マスク(英語版)とともに、オンラインコンテンツ出版ソフトを提供するZip2社を起業する。この会社はのちにコンパック社のAltaVista部門に買収され、マスクは3億700万USドルの現金と、ストックオプションで3400万ドルを手にいれる。
1999年にはオンライン金融サービスと電子メールによる支払いサービスを行うX.com社の共同設立者となる。X.com社は1年後にコンフィニティ社(英語版)と合併し、これが2001年にPayPal社となる。
2002年に3つ目の会社として、宇宙輸送を可能にするロケットを製造開発するスペースX社を起業し、CEOならびにCTOに就任している。また電気自動車会社であるテスラモーターズ社に投資し、同社の最初のモデル「0001」を自ら所有する。2008年10月には同社の会長兼CEOに就任した。
2006年には太陽光発電会社ソーラーシティ(英語版)を従兄弟であるリンドン・リーブ(英語版)と共同で立ち上げ同社の会長に就任した。2013年には時速約800マイル(約1287キロ)の輸送機関ハイパーループ構想を明らかにした。

まさに打ち出の小槌のように企業を転がし,金を転がして次々と事業を興しています。さらにすごいと思わせるポイントが,各企業を股にかけて個人名義で資金を出し入れしている点です。

WSJによると以下のようなやり方ですです。

マスク氏は、02年に電子決済サービス会社の現ペイパル・ホールディングスの株を売却して得た1億6500万ドルを使って、ソーラーシティー、スペースX、テスラの誕生を助けた。同氏は最初から、1社の資金で他社を支援することに積極的だった。

08年後半には、テスラが資金調達難から破綻の危機に立たされた。マスク氏は4000万ドルの資金調達ラウンドの一環として、自己資金2000万ドルを投資すると言明した。

一方、スペースXはこの時期ロケット打ち上げ事業で苦戦しており、保有現金も少なかった。しかし、ニュースリリースによるとその後、航空宇宙局(NASA)の無人宇宙船計画で16億ドルの契約を勝ち取った。

マスク氏は09年早期に、スペースXから個人で2000万ドルを借り入れた。インタビューで「テスラの資金繰りを助ける」ためだったと話している。

テスラは10年6月に上場した。マスク氏は140万株を約2380万ドルで売却し、スペースXからの借入金に利子をつけて返済した。テスラ株を売却したのはこのときだけだという。

これまでベンチャー企業の栄枯盛衰を多数目にしてきましたが,倒産する最大の原因は運転資金の枯渇です。

よく新興企業が上場する際にIPOの窓が開くタイミングを見計らって上場手続きをすると言われますが,このIPOの窓(投資家がベンチャーに乗り気なタイミング)を少しでも外すと,調達できる資金が10分の一にまで減ってしまうこともザラです。悪いタイミングだと,そもそもロードショーが打ち切りになって,それで消えることも。

ベンチャー企業のCFO(財務責任者)の腕の見せ所は,創業当初の「アイデアも見通しも明るいが,手元の現金が足りない」時期をどう乗り切るかに掛かっています。大手企業との資本提携を選ぶ場合や,IPOする場合など状況に合わせて様々ですが,イーロン・マスクはこうした資金融通のノウハウに関しては,当代一と言ってもいいと思います。

たとえば,スペースX社はNASAとの16億ドルの大口契約がなければ間違いなく潰れていたと思いますし,ソーラーパネルブームがなければやはりソーラーシティーもとっくの昔に潰れていたと思います。そうした危機的な状況を迎えても,どういうわけか明治時代の政商のようにうまく政府に取り入って契約金や助成金を獲得しています。

借金に借金を重ね,買収に買収を重ね,見ていると危なっかしいですがベンチャーとは他人が避けたがるリスクを,人の代わりに取るからこそベンチャーなわけで,投資家に「魅力的な投資先」を提供するのが起業家の仕事です。

イーロン・マスクを”CFO”として見た場合,投資家目線で見習うべき点がいくつかあるのでまとめてみましょう。

まず1つめが,事業の収支予測に関して自分で調査を行い,売上・コストなどを正確にはじき出している点です。これはテスラ・モータース(TSLA)の電気自動車をどの程度の規模で製造・販売すれば軌道に乗るかを計算し,最終的にギガ・ファクトリーと呼ばれる電池工場を自社で建設したあたりにも垣間見られます。

こうした「数字に強い」経営者がいると見通しが立てやすいため,投資家が好むポイントとなります。

2番目が,世の中,その中でもハイ・ソサイエティーな人々が何を求めているかを正確に嗅ぎ取る能力です。ハイソというと金持ちだけではなく,アル・ゴアのような理想主義者や,ええかっこしぃの政府なども含みます。

イーロン・マスク自身が夢想家・自信家気味であるからこその嗅覚なのかも知れませんが,これもまた新しいテーマを創出するということで投資家が好むポイントです。

このように,イーロン・マスクは,世相に強く,数字に強いわけですが,これって孫正義氏にそっくりですね。孫氏の場合は,東日本大震災後の電力危機に乗じてメガ・ソーラー(ソーラーベルト構想)に乗り出していました。こういった,「世の中の雰囲気が変わって,政府の資金が動くとき」起業家は胸騒ぎがするのだと思います。

私は当時,どちらかというと孫氏を冷めた目,引いた姿勢で見ていましたが,今振り返ってみると,投資家としてはそうした後ろ向きで保守的な姿勢はマイナスの影響の方が大きいと感じるようになりました。ちょっとした成長でしょうか。

米国には孫氏を上回るような天性の起業家,あるいは起業ジャンキーがごろごろしています。

私も個人投資家として,彼らに負けない嗅覚を発揮できるように今後も市場と向き合っていこうと思います。いやその前に,サラリーマンを引退して自分の事業を持つのが先でしょうか。

皆さんも起業とアーリー・リタイヤに向けて頑張ってください!

 

 

7 thoughts on “イーロン・マスクの金の匂いを嗅ぐ力

  • 2016年10月18日 at 7:30 PM
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    管理人さんはポートフォリオは公開されて無いのでしょうか?

    Reply
    • 2016年10月18日 at 11:19 PM
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      >qualさん
      コメントありがとうございます。
      ブログにポートフォリオを公開してしまうとネガティブな影響があるため公開していません。
      (特にブログ村は殺伐としており「愚かな投資家」だの「自信過剰」だの「ナルシスト」だのという
       レッテルを貼る人がいるので。)
      本ブログはできるだけ長期的な視点で,バイアスの少ない記事を書くように心がけたいと思っています。
      一応断っておくと,米国個別銘柄に分散投資しており,ETFやコモディティには手を出していません。

      Reply
      • 2016年10月19日 at 7:32 AM
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        ありがとうございます。おっしゃる通り殺伐としていますね。
        最近シーゲル教授の本を読んで、インデックスの分散投資を始めるところを揺り動かされた状態です。
        深い分析をされているのでとても参考になっています。

        連続増配銘柄に投資する(3) 投資ルールを決める
        http://forever-investor.com/investmentstrategy/indivisualselection/dividend_rule/

        このルールで運用しているということでしょうか?

        Reply
        • 2016年10月19日 at 12:32 PM
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          qualさん
          以前書いた記事まで読んでいただいてありがとうございます。実は私の投資スタンスは長期投資ですが、必ずしも配当最重視ではありませんので、実はそのページで取り上げた銘柄はほとんど持っていません。
          どちらかと言えば、ワクワクするような成長株のほうが地味な銘柄より好きなんです。
          ただ、ペプシコとかコカコーラについて書いた記事を見ていただきたいんですが、ありふれた商品を販売しながらも事業体質を変革しようとしている(ハイテクに比べればはるかに遅い変化ですが)点が面白いなと思っています。こういった経営陣の手腕を応援したい気はするので、下げたら買おうと狙っています。
          言ってみれば、雑多にいろんな切り口で企業分析して、網を広げておいて、たまたま引っかかる安値の銘柄をさがしているとでもいいますか。
          シーゲル博士の本は私も何度も読んでまして、過去の記事ではレイノルズ・アメリカン等でバックテスティングしてみたりもしました。参考なれば。

          Reply
  • 2016年10月21日 at 7:18 AM
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    丁寧なコメントありがとうございます。
    もし、差し障りがあるようでしたら自分の過去のコメントと、返信いただいたコメントを削除して下さい。

    管理人さんが日本株(大型・中小)でなく、ヨーロッパでもなく米国株に投資される理由は何でしょうか?

    Reply
  • 2016年10月22日 at 7:42 PM
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    >qualさん
    お気遣いありがとうございます。大丈夫です。
    米国株に投資している理由は、やはり今後長期的に見て、特に人口動態を考えると高齢化率の高い日欧より米国が成長する可能性が高いと考えているからです。
    また米国企業は内向きな企業は極端に一向きな一方で、グローバル企業は極端にグローバル志向となっており、例えば新興国の成長の恩恵を受ける企業を選ぶことも可能というメリットがあります。さらに米国外に本社がある企業も米国に上場していたりしますし。
    こうしたことを考えると、米国株=米国に上場する世界一流企業に投資していることになるので、今の所不自由を感じていません。
    もちろん、本来は他の市場、例えばロンドンとかもカバーして投資機会を探りたい気持ちはありますが、まだまだ先になりますね。

    Reply
  • 2016年11月6日 at 10:31 PM
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    「資金繰りに関しては並外れた嗅覚」は、まさにその通りだと(彼の自伝を読んで)感じました。

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