経営陣① インテル(INTC)

『千年投資の公理』(パット・ドーシー著)という書籍では,誤解されている堀の一つとして「優秀な経営陣」を挙げています。

企業の業績に与える経営陣の影響を調べた研究がいくつかあるが、業種やそれ以外の様々な要因を調整するとその影響はさほど大きくないことが分かっている。

出典:千年投資の公理 P43

またウォーレン・バフェットも「優れていると評判の経営陣が、収益性が低いと評判の事業に挑んだとき、評判が変わらないのは事業のほうだ」とも述べており,業界内では一定の支持を得ている考え方のようです。

おそらくドーシーやバフェットの言いたいことは,”優秀な経営陣さえいれば”どんな企業でも優れた企業に化けるわけでは無いということであり,それを強調するためにわざわざ誤解だという強い口調で諭してくれているのでしょう。

では,本当に優秀な経営陣は企業を導けないのでしょうか?

私が今まで企業を研究してきた限りにおいては逆で,平凡あるいは多少優れた程度の企業なら経営陣の影響はさほど無い(どんぐりの背比べ)ですが,傑出した企業に限ると話は全く変わってくると感じています。すなわち一部の優れた,あるいは天才的な経営者こそが,企業をGoodからGreat, Superiorなレベルに押し上げると考えています。(もちろん,反証となる事例が多数あるとは思いますが。)

インテル(INTC)などはシリコンバレーの中でも超優秀な経営陣が奇跡的に集まって誕生した事例だと思います。インテルの主要な創業者はボブ・ノイス,ゴードン・ムーア,アンディ・グローブの3人ですが,その3人の誰か一人が欠けたとしても創業当時にこけていたでしょう。特にボブ・ノイスは,ビル・ヒューレットと並んでスティーブ・ジョブスの尊敬する人物の一人であり,インテルにとってのキーパーソンでした。

インテルの創業者3人はもともとノーベル賞物理学賞科学者のショックレー研究所に勤めていました。しかし,頭脳明晰ながら猜疑心が強くマネージメント能力が欠如したショックレー博士に反旗を翻した8人組が会社を飛び出し,フェアチャイルド社からエンジェル投資的な感じで資金を融資してもらって,フェアチャイルドの子会社としてフェアチャイルド・セミコンダクターという半導体ベンチャーを設立します。

もともとトランジスタの発明という業界の生みの親とも言われるショックレー博士のもとに集まっていた科学者は全米最高の頭脳ばかりであり,フェアチャイルドを創業した8人も漏れなく技術的にも経営的にも優秀な人材ばかりでした。数々の品質問題や競争激化の波をくぐり抜け,メモリなどの分野で半導体業界で華々しい成功を収めたフェアチャイルド・セミコンダクターですが,徐々に親会社フェアチャイルドとの関係悪化(親会社としての締め付けが強化され,自由闊達な文化を好むノイスらとと合わなくなった)や仲間割れののちに,1968年にボブ・ノイス,ゴードン・ムーア,アンディ・グローブの3人がインテルを創業します。

この歴史的なイベントで投資をしないかと持ちかけられたのが,かのウォーレン・バフェットですが予想通り”テクノロジーには投資しない”という判断で投資を断っています。(#残念!)

ただ,半導体業界でのボブ・ノイスらの評判はすこぶるよく,瞬く間に創業に必要な資金をかき集め,製造装置は手作りで作り,あっという間にメモリ及びCPUの分野で業界首位に躍り出ます。

その後のインテルの活躍はご存知の通り,ゴードン・ムーアの法則を守り続け,半導体の性能向上を指数関数的に高め続けるために,製造技術の粋を集めて破壊的創造を続けています。私たちユーザーからするとありがたい限りです。

フィンテックだとか,不動産テックだとか,AIだとか言った最近のテクノロジーはインテルの偉業に比べれば,技術の応用分野の枝葉末節な話です。米国がなぜシリコンバレーという巨大なテクノロジー集積地を保持し続けることが出来ているのかというと,やはりインテルがムーアの法則という「今後も長期に渡ってたゆまず性能を上げ続け,価格破壊を続けます」という宣言をしてくれたからでしょう。もちろん,ゴードン・ムーアも半世紀後もムーアの法則が信じられ続けるとは思っていなかったでしょうが,少なくともシリコンバレーの人々はムーアの法則を信じ,同じ向きに向かって走ることが出来ました。

投資家は「ムーアの法則を守り続けるには,莫大な投資が必要なのは理解できる」と言って巨額のR&D費用を必要な投資だと認め,エンジニアは「飽くなき技術競争も後50年は続けないといけない作業だ」と理解して自らの成果物を自ら陳腐化させて葬り去ることを是としました。

こうやって考えると,ゴードン・ムーアはマラソンのペースメーカー(20km過ぎまで先頭でペースを引っ張るランナー)の役割を果たしていることが分かります。しかも,業界最大手が自らコミットして,自社製品を高速で陳腐化させていくわけですから,競合企業は負けていられません。ボブ・ノイスというカリスマとともに,ゴードン・ムーアというペースメーカーを有するインテルは強いわけです。

話を元に戻しますが,バフェットのいう「バカでも経営できる会社がいい」という言葉は,逆転不可能なモートを有する企業のたとえですが,こうした企業を作り上げた事例を遡って見てみると,多くの場合は類い稀な経営者の姿が浮かび上がってきます。こうしたインテルのような事例を見れば,優れた経営陣というのは数十年後の世界をも左右するほどの唯一無二の無形資産であり,短期的な業績どうこうで経営陣を判断するのではなく,長期的な視野で経営陣の質を評価していくのが長期投資家にとっては必要だと再認識させられます。

余談ですが,今ではグーグルなどで当たり前となっていますシリコンバレーのイメージの源流はインテルに遡ります。インテルは当時の米国大企業には珍しいフラットな企業文化であり,経営陣だからと言って特別な部屋は求めず大部屋で一緒に仕事をしていましたし,自家用ジェットなども使いませんでした。むしろ,そうした「経営陣の特別扱い」は東海岸の文化だと言って毛嫌いさえしていました。

フラットな文化はシリコンバレーのテック企業のみならず,アムジェン(AMGN)のようなバイオ企業でも「CEO専用の駐車場は用意されておらず,早い者勝ち」となっていたりします。それだけ広く影響を与えていたということが言えると思います。

※フラットな企業文化の正反対といえば,エクソン・モービル(XOM)です。まさに武器を持たない軍隊とも呼ばれる規律あるヒエラルキー組織であり,して良いこと,して悪いことは全て規則に書かれており,原油流出事故の後の「事故ゼロ」キャンペーンを行なっていたときには「コピー用紙で手を切っただけでも,CEOに報告させていた」ほど規則が全てな会社です。そこまで徹底しないと戦乱地域で油田開発なんてできないからでしょうが,米国企業とは一口で言っても価値観が正反対で面白い点です。

7 thoughts on “経営陣① インテル(INTC)

  • 2016年10月31日 at 8:03 AM
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    素晴らしい記事をありがとうございます。
    ハイテク系の銘柄には投資しない方向でしたが、このような企業文化だったとは・・・
    ニューコアのような文化だったのですね。
    これは考え直さないと・・・

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  • 2016年10月31日 at 3:08 PM
    Permalink

    知っているようで知らなかったインテルの話、非常にためになりました。

    ムーアの法則は知っていて、それを続けるということは相当すごいことなので、にわかに信じられなかったのですが、シリコンバレーでそういう文化が根付いているとなれば、スピードが非常に速いのにも納得がいきます。

    自らの製品を陳腐化させる、、、凡人にはなかなか決断できません。(笑)

    バフェット流投資分析を使わせていただきました。

    大変参考になりました。

    特に米国企業の配当金の伸び具合を見て、改めて米国の企業に驚きました。

    ありがとうございました。

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    • 2016年10月31日 at 8:38 PM
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      ブックさん
      コメントありがとうございます。
      米国企業は収益的な観点でも(配当・自社株買い),
      企業のストーリーを調べるだけでも見ていて楽しいです。
      それにしても,日本や中国や後進国に追い立てられても,依然として米国は勝ち組の地位を維持しており米国の底力を感じます。

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  • 2016年11月4日 at 7:24 AM
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    最近、日本株式の株主還元意識が改善されてきたという記事を散見しますが管理人さんはどう思いますか?

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    • 2016年11月5日 at 12:15 AM
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      ookushiさん
      日本株の株主還元意識ですが,私個人としては米国企業に比べると全然だと思います。
      というのも,やはり大企業を中心に社内政治(人事争い)の方が経営陣の主な関心ごとなのと,
      株主よりも金融機関の扱いの方がはるかに上だと感じるからです。(銀行から企業への天下りも多いですし。)
      株主中心の考え方というのは日本には根付かないと思います。

      Reply
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