ペイパル(PYPL) 企業分析

企業概要

ペイパル(PYPL)はB2B, B2Cのデジタル決済・モバイル決済を行う様々なプラットフォームを提供しています。

アクティブアカウント数は1.97億件(うち小売業者は1500万件で,残りは消費者)あり,全世界で約2億人が利用している巨大な決済会社です。特にペイパルブランドは決済の代名詞とも言えるほど知名度が高く,ネットワーク効果によるワイドモート企業と言えるでしょう。(ただし,決済分野はここ5年間程度の技術革新のペースがあまりに早いのでペイパルのブランド優位性やモートは削られ気味。)

創業から間も無くはeBay(EBAY)での決済がペイパルの取引額の大半を占めていたことから一時はeBay傘下に収まっていました。その後,2015年1月にeBayが再びペイパルをスピンオフし,現在はNasdaqに上場しています。

提供しているプラットフォームには(買収により獲得したものも含めて)PayPal, PayPal Credit, Braintree, Venmo, Xoom, and Paydiantなどがあります。これらのうち,Paypal, Venmo, Xoomは個人間決済によく使われます。

「決済を誰もが使えるようにする」というミッションを持っており,その名の通り決済に関わる様々な形態の「マネー」を取り扱っています。クレジットカード,デビットカード,電子マネー,ビットコイン,ギフトカード,クーポンなども決済手段の一つとして取り扱うことができます。

売り上げの大半は決済時の手数料が占めており,他にも為替交換手数料などからも収益を得ています。(海外通販でペイパルを使う場合,ペイパルがドル建て決済を肩代わりしてくれて,自分のクレジットカードには円建てで引き落とし請求が来る。この時の為替手数料のこと。)ビザ(V)などのIT系金融サービス業と同じく売り上げが全て粗利です。

リスク

業態的に決済ボリューム(利用者数×決済回数×平均決済金額)がそのまま売り上げの増減に影響するため,個人消費額が売り上げを大きく左右します。上場してからまだ3年程度と期間が短いこともあって,リーマンショックのような個人消費の冷え込みの際にどういう影響を受けるかが未知数な点が懸念として残ります。

また,決済を行うスタートアップは無数に存在します。競争の激化により,ペイパルの決済手数料が2.75%なら競合のスクエア(SQ)は2.70%という風に,手数料の値引き合戦になって来るとマージンが削られていく恐れがあります。

チャート




企業ホームページ

Paypal

セクター

情報技術セクター

基本情報

経営陣

CEO:ダニエル・シェルマン(シマンテック,アメリカン・エクスプレス,スプリントなどで要職を歴任し,2015年から現職)

規模

従業員数:18,100名(米国:10,180名)

決算

7月26日の決算ではEPSはYoY+27.78%と上々の数字でした。上場してまだ間もないですがEPS成長率は四半期決算のたびに加速しており,強い利益上昇モメンタムを維持できています。

PYPL_earnings_20170726

 

セグメント

ペイパルの売り上げの大半を占めるのは決済手数料収入です。その他の付加価値(VA)収入は主としてPaypal Credit部門のクレジットカードローン手数料などが占めています。決済収入はCAGR+15%の伸び,その他付加価値収入はCAGR+21%の伸び率です。

PYPL_segment_revenue

注意が必要なのは,総決済金額(Total Payment Volume: TPV)の増加に比例して,決済収入が増えるわけではないという点です。特に大口顧客への手数料ディスカウントが響いており,TPVがCAGR+23%で伸びている一方で,決済手数料率(Transaction Revenue Rate)は年々低下しています。2014年に3.03%だった手数料率は,2016年決算では2.68%です。

TPVの伸び率が十分に大きいために利幅マージンが削られながらも,利益の絶対金額は伸びているというのが現在のペイパルの状況です。

Paypal_TPV_2016

 

 

デジタル決済全盛になりつつある今,ペイパルのTPVの伸びは今後も継続すると見ますが,決済手数料率を維持できるかどうかという点は競争の激化次第です。スクエア(SQ)やイントゥイット(INTU)なども類似の決済サービスを提供しているため,手数料率を犠牲にしてボリューム(TPV)をとるか,ボリュームを犠牲にしてTPVを維持するか,今後の動向を継続して見ていく必要があります。

<ウォッチポイント>

『決済ボリューム(TPV)の伸び率で,決済手数料率の低下をカバーできるかどうか?』

 

収益力

じわじわと利益率は低下しているものの,長期的に見た収益力はさほど低下していません。

 

 

Paypal_profitability

 

市場

近年はフィンテックによる決済手段の技術革新のペースが異様に早く,世界的にキャッシュレス社会への移行が加速しています。(日本はだいぶ遅れていますが。)

中国ではここ2〜3年の間にモバイル決済が爆発的に普及しました。AliPay(アリババ(BABA)が提供するQRコード決済)や微信(ウェイボー(WB)が提供する同様の決済システム),WeChatPay(同じくテンセントの提供する決済)などが中国本土だけではなく,日本のヨドバシカメラ,ドラッグストアなどでも使えるようになっています。

また,米国ではスクエア(SQ)といったスタートアップが上場し小売業者に利用されています。またイントゥイット(INTU)などの老舗も類似のサービスを出しており決済の世界は戦国時代さながらです。

<左がスクエア,右がペイパル。どちらもiPhoneでクレジットカードを読み込み,専用アプリで決済できる。>

square_paypal

市場成長率

マッキンゼーの2016年の調査によると,2020年までの決済市場はCAGR+5%成長が見込まれます。

また,APAC地域(アジア・太平洋地域)の決済市場が突出しており世界最大となっています。この背景にはアリババ(BABA)やテンセントの躍進によるB2B間決済の電子化が急速に進んでいることがあります。アジアが最重要地域であるというのは今後も変わらないでしょう。

McKinseyGlobalPayment2016

市場の行く末

決済市場が伸び続ける可能性は高いですが,一方で競争激化によってコスト削減圧力が今でにないほど高まっています。

マッキンゼーの主張では国際決済業務1回あたりのコストが2015年時点で$25〜$35だったのを,$1〜$2まで下げないと競争力は維持できないだろうとのこと。そのためには,決済処理手数料,銀行の国際口座間の手数料,為替手数料など決済に関わる全てのコストを劇的に減らさないと不可能です。

cost_per_international_payment

今,フィンテックという破壊的イノベーションの波の中で人々が望んでいるのは,ここまでのコストダウンということです。銀行・決済事業者(クレジットカード会社やペイパルなど)・FX業者などが全方位的にコストを削減する圧力に晒されているというわけで,勝ち残る少数の企業をみつけることが投資で成功するポイントとなります。

別分野で言えば1970年代にウォルマートがエブリデイ・ロープライスによってバラエティ・ストアを淘汰し,現在,アマゾンが既存の百貨店・スーパーマーケット・小売店を淘汰しつつあるのと同様,コモディティを取り扱う市場では「圧倒的な低コスト」という競争優位性を持った企業が勝ち残るのが常です。

決済分野でも同様の企業淘汰が起きるのは間違いないでしょう。

競合

市場シェア

市場シェアはかなり把握しづらいのですが,ペイパルが市場の過半〜7割を占めています。2位争い以下が熾烈で,ストライプ,スクエア,ブレインツリー(BrainTree: ペイパルが買収した決済サービス)などが入っています。

決済ボリュームを増やすためにペイパルは競合の買収に取り組んでおり,少しずつ特色・強みの異なるプラットフォームを傘下に納める戦略に出ています。シスコ・システムズ(CSCO)やフェイスブック(FB)のようなシナジーは求めつつも,本当の狙いは競合が強くなる前に芽をつむための予防的買収に近いかもしれません。

スクエアはスマートフォンをクレジットカードリーダー端末に変えてしまうガジェットが売りで,こちらは実店舗の小売業者に絶大な人気がありますし,ストライプはHTMLの中に決済機能ボタンを埋め込めるコードが売りで,こちらはオンラインショップに人気があります。

こうしたユーザーや小売業者が不便に思っている点を改良するベンチャーは,米国に毎年誕生しており,小さいが新しいライバルは次々にペイパルの抱える顧客を狙っています。決済市場の激変は間違いないので今後の戦い方が見ものです。

datanyze

Payment_market_share

決済ソフトウェア市場@2015(少し古いデータ,かつ,決済金額ではなくユーザー数を示すシェア)

payment_software_market

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