投資はアート(ハワード・マークス)

ハワード・マークス

投資で一番大切な20の教え―賢い投資家になるための隠れた常識』の著者ハワード・マークスは,オークツリーにて投資家に数々の至高のアドバイスを提供してくれています。(英語ですので読むのに根気が要りますが,ぜひ。)

個別のアドバイスは置いておいて,私が個人的にもっとも感銘を受けた一言は『投資はサイエンスではなくアートだ(Investment is an art instead of science.)』という一言でした。私が投資を始めた頃は投資は科学だという論調の投資工学が盛んな時期で,多くの数学科の学生たちがスイス銀行などの投資銀行へと就職していきました。

こうした背景もあって投資工学脳だった私は,データ至上主義に陥っていたわけですが,そうした考えを改めさせてくれたのが『投資はアート』論です。アートとは私の理解では,『スタイル+スキル』のことだと考えています。日本語で言うなら『道』とか『技』とかの職人芸的なことばを当てはめたいですね。

投資がアートだとすると何が違うか?

私はアートを理解するまでに多くの間違いを犯しました。結局のところ,アートがアートだと理解するには自分自身で相場を経験しないと分からないというのが,アートがアートたる所以だと思います。

トートロジーで何を書いているかよく分からなくなってきましたが,アートとは読書で身につけたり,学校で学んで身につける類の学問的なスキルや知識ではないと言うことです。

どちらかと言えば,自転車に乗れるようになるとか,麻雀で他人の手を推測できるようになるとかいうような,身体的あるいは感覚的な要素が大きいスキルだと言えます。まだまだ工学とは言えない領域なのだと理解しました。

東大卒の負けない投資工学さんという投資の教科書ブログも参考にしていますが,相場で工学的な秩序(※ある入力に対して再現性のある結果が得られる世界)が幅をきかせるのはせいぜい2割程度で,残り8割は地政学やら外交政策やら心理学やら気まぐれやらが支配している宇宙だという認識です。たとえば,ジャネット・イエレンのような女の気まぐれとか。

では,アートを身につけることはできないかというと,どうもハワード・マークスの言い分だとそうでも無いようです。投資でうまくやるには,相場が理不尽であることを理解し(#株価は振り子のようなもので,もっとも安定する真ん中の位置には留まらない),ほかの投資家たちの心理を理解すること,そして逆を行くことが役立つと言うことを知りました。

こうして私も行動経済学にのめり込んでいきました。

行動経済学

最近読んだ中でもっともまとまっていたのは『3%シグナル投資法』です。タイトルが糞なので誰も買わないと思いますが,内容は至ってまじめで分かりやすいです。以下,行動経済学の要点だけ抜粋しますが,私が痛みを持って学んだ経験則と驚くほど一致しています。ということは,相場に長年携わっている方は似たような経験をされ,同じような智慧を身につけていらっしゃると言うことだと思います。あえて,自分用のメモとして列挙しますが,

  • 自分で経験したことを信じがち
    ※ノーベル賞経済学者カーネマンの言葉。「私たちが直接経験できることは限られているが,そのわずかな経験を信じて極端な判断をしてしまいがち」ということ。自己中心バイアスとも言えます。
  • 前から知っていたと思い込みがち
    後知恵バイアスとも言われますが,「過去の時点で自分がどの程度のことを知っていたかを,後になって正確に思い出すことは出来ない」ということ。ソクラテスの無知の知の反対ですね。
  • パターン認識が役に立つのは学習効果があるときのみ
    ※カーネマンによると「直観とはパターン認識のこと」だそうですが,このパターン認識は判断の誤りを誘発しやすいものです。なぜかというと,信頼性の高いパターン認識が成立する条件とは①パターンの再現性が高いこと②パターン認識が正しかったかどうかフィードバックが得られること,の二つが必要とのこと。これら二つが揃ってはじめて学習効果が得られ,直観(パターン認識)のスキルが磨かれ,精度が上がっていきます。
    ご存じのように株価というのはパターン認識できるほど再現性の高い動きはしてくれません。むしろ嫌がらせのように,似て非なるパターンばかり出題してひっかけてくるクイズみたいなものばかりです。直観は信じちゃいけません。
  • 単なるノイズにでさえもパターンを見いだす癖がある
    確証バイアスとも言われますが,人間の脳は「パターン認識マシン」であり,こじつけが得意です。以前も書きましたが,ランダムなものに規則性を無理矢理見いだして理解しようとしたりしてしまうのも,単細胞脳の仕業だと言うことでした。
  • 自分が所有しているものに愛着が湧く
    保有バイアスとも言われますが,自分が保有している銘柄は愛着が湧くものです。株を買うと言う行為は企業と運命をともにする行為であり,言ってみれば創業者になるようなものだからです。これは企業業績を信じて株価は気にしないというスタンスを正当化できるという意味で,長期投資家にとっては下げ相場で力強い味方となってくれるバイアスです。

こうしてみると,脳は楽をしようとしてひたすら思考の近道(バイアス任せの自動判断)ばかりして,投資家を困らせるように出来ているようですね。

個人的にバイアス除去のためにやっているトレーニングは「自分が無一文で投資金額ゼロだったら」という仮定です。(要は投資と無縁な立場だったら・・・ということですね。)

こう考えると,自ずと相場の理不尽な動きに目が留まり,下げすぎな銘柄とか上げ過ぎな銘柄が見抜けるようになりました。とはいえ,下げすぎな銘柄がその後上がるという保証はないので,いくら客観的に相場を眺めたとしても儲けには繋がらないところが”投資はアート”(ハワード・マークス)たるところですが。

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