バークシャー・ハサウェイ(BRK.A/BRK.B)という温室

バークシャー・ハサウェイ(BRK.A/BRK.B)は老舗企業ながら,株式市場との接し方という点で普通の企業とは一線を画しています。

  • 配当なし
  • ストックオプションなし
  • 株式分割なし
  • 自社株買いなし

これらはバークシャーの以下の経営方針に従ったものです。

  1. 利益は全て内部留保して再投資に回す
  2. ROE,ROICの”単年度の数字”を高めるための経営は行わない
  3. 株式の希薄化も濃縮も行わない(増資は巨大買収のタイミングのみ)

この中でも特にバークシャーが際立っているのは内部留保についてです。利益の全てを留保するというのは,通常は成長期の企業がやることであり,一定規模以上で成長が鈍化した企業は株主への直接還元として配当を好みます。

そうした市場の一般常識に反して配当を出さない理由は,バークシャーがバフェットのほぼ全財産を運用する財団のようなものであり,保有資産の価値をロスせずに増やすことを目的とした企業だからです。

仮に配当を受け取ったとしても,どうせバフェットのことですから再投資に回すでしょうし,その場合,配当への課税がされる分だけロスが発生します。それなら,最初から利益を出金しないというのが,バフェット自身にとって最も合理的ということになります。

内部留保

バフェットは株主への手紙の中で,”retained earnings”(内部留保)というキーワードは,1977年〜2015年の39年間のうち実に26年分の株主への手紙の中で言及するほど,繰り返し登場しています。と言っても,内部留保を特段に重視しているというよりは,バークシャーの経営方針の説明の一環で触れられている感じです。

一箇所だけ引用しておくと以下のような文脈で言及しています。

Book value is an accounting concept, recording the accumulated financial input from both contributed capital and retained earnings. Intrinsic business value is an economic concept, estimating future cash output discounted to present value. Book value tells you what has been put in; intrinsic business value estimates what can be taken out.
出典:1983年

この一文は会計的には当たり前のことを述べているわけですが,

  • 今まで投下した資本:「運転資本+内部留保」の積算=>純資産
  • 投下資本からのリターン:将来の儲けを現在に割り引いた価値=>内在的価値

ということを意味しています。

さて,ここから本題の内部留保に移りましょう。

バークシャー・ハサウェイの経営目標

バフェットが言うには,二つの価値のうちの後者,内在的価値(事業価値)を最大化することが唯一無二の経営目標です。

バフェットは若い頃はグレアムのコバンザメ投資家だった時代がありました。その当時はどちらかと言えば,前者の純資産の価値が市場価値を下回ったかどうかを最重視するバリュー投資家でした。

当時,グレアムはスーパースターだったので仕方ないのかもしれないですが,バリュー投資を続ける中で成功を収めつつも,バークシャー・ハサウェイという繊維会社買収の失敗によって,どれだけ資本を投下しても収益性が向上しない駄馬のようなビジネスに辟易します。

これが1970年代以降,バークシャーがキャンデー会社や保険会社を買収し,今の経営目標である「内在的価値(intrinstic value)を最大化する」ことに重きをおくようになったきっかけです。

今であれば,内在的価値=事業としての価値の方が,資産価値よりもはるかに重要であるというのは半ば常識です。PBR投資家(資産株の純資産価値を見る),PER投資家(事業価値の割安さを見る)であれば,圧倒的に後者のPERの方が普及しています。

雪だるま

さて,内部留保ですが,先ほどの一文,”Book value is an accounting concept, recording the accumulated financial input from both contributed capital and retained earnings.“の”accumulated financial input”の部分がバフェットらしいところです。

バフェットは単に雪だるまを転がすだけではなく,バークシャーという雪だるまに内部留保という新雪を常に投入し続けています。これが投下資本の部。

コングロマリット・ディスカウント

バークシャーの決算書にも書かれている通り,バークシャーは傘下企業の事業内容に口出ししないばかりか,重複部門の整理統合など効率化さえも行いません。単に傘下に収めるだけ,です。事業間のシナジーもほとんどありません。

こうした多角的経営は日本では多悪化と呼ばれ忌み嫌われますし,世界的にもコングロマリット・ディスカウントと呼ばれる低評価に繋がるのが一般的です。

買収で最も良いのは類似の事業を合併することで,規模の経済を生かし競争を緩和し,生産性を高めるような買収(エクソンによるモービル買収など)です。

次点で良いのは,戦略的に補完的な事業を拡大するための買収(ペプシコによるLAYSなどお菓子企業買収)です。

はっきり言って,鉄道とキャンディーと家具と保険と宝飾品では戦略なき買収を繰り返しているだけに見えます。

温室経営

このように当初,経営陣の能力を疑ってしまっていましたが,先入観を排してよく調べて見ると,バークシャーの買収には一定のメリットがあると思うにいたりました。

バフェットにとっての買収は,将来有望な事業のコレクションを増やすことであり,それらの事業をウォール街などの株主圧力から守り,四半期の業績を気にせずに長期的経営をさせるために買収という手段を用いています。

バークシャー・ハサウェイは「巨大な温室」であり,雨(ウォール街の圧力),風(金融機関からの貸し剝がし)を防ぐ効果がある,というわけです。

「巨大な温室」の中でトマト(鉄道)やらカボチャ(エネルギー)やらトウモロコシ(キャンディー)をどう育てるかがバフェットの腕の見せ所であり,収穫が増えればそれは温室のオーナーであるバフェットの儲けになります。

キャピタル・アロケーション

また,バフェットのCEOとしてのもう一つ重要な役割は,キャピタル・アロケーション,すなわち,傘下企業から得られた収益を管理し,最適な事業に再投資することです。

トマトがよく採れたからと言って,毎年毎年トマトの栽培にばかり投資をするのは収益機会を考えると合理的ではありません。トマトの栽培で儲けた利益を翌年はトウモロコシの方に回すというような,『資金配分』は親会社の特権です。独立採算制とかビジネス・ユニット制とは異なる点に注意する必要があります。

このように,市場でしっかりした苗を見つけてきて,それを温室(バークシャー傘下)に入れて育てるというのは,案外合理的であり,端から見るほど悪いものではありません。もちろん,市場からの正当な評価は得られないでしょうが,内在的価値を高めるという経営目標に対しては十分に貢献できる方策だと思います。

内部留保と経営の自由度

以上を俯瞰すると,バフェットが内部留保を再投資し続けるのは,潤沢な資金を用意することでキャピタル・アロケーションの自由度を高め,バフェット自身の経営の自由度を高めるメリットがあるからだと言えます。つまりは,巨額な資金余力があれば,思い切った経営や投資ができ,結果的に内在的価値を高める自信があるということです。

たとえば,リーマンショックのような短期的な収益機会には「温室の外」(たとえば,ゴールドマン・サックス)にも大きく投資し,平時には長期的視点で「温室栽培」(鉄道事業やエネルギー事業に投資する)に専念することができます。

このように相場の浮沈(市場への投資機会)と傘下事業自体の成長(傘下事業への投資機会)の双方を見据えてキャピタル・アロケーションをするというのがバフェットの仕事ということになります。こう考えると,単なるファンドマネージャー+経営者であり,これまで50年間驚異的な成績を残してきたのは偉業という他ありません。

これだけの業務負担がありながら高い給与は得ておらず,資本家としては極めて貪欲ですが,経営者としては清貧です。よほどこの仕事が好きなのだとしか思えませんね。

自社株買いは配当より良い

自社株買いはしていないバークシャーですが,投資先企業が自社株買いを行うことについてはきわめて好意的です。

When Coca-Cola uses retained earnings to repurchase its shares, the company increases our percentage ownership in what I regard to be the most valuable franchise in the world. (Coke also, of course, uses retained earnings in many other value-enhancing ways.) Instead of repurchasing stock, Coca- Cola could pay those funds to us in dividends, which we could then use to purchase more Coke shares. That would be a less efficient scenario: Because of taxes we would pay on dividend income, we would not be able to increase our proportionate ownership to the degree that Coke can, acting for us. If this less efficient procedure were followed, however, Berkshire would report far greater “earnings.”
出典:1990年

特にコカ・コーラ(KO)のような潤沢なフリーキャッシュフローがある企業が自社株買いを行う場合,既存オーナーの所有権比率は高まります。配当を出して,株主がその配当でコカ・コーラの株を買い増しする場合は課税による資産が目減りするため,バフェットは配当をそれほど好んでいません。

バフェットにとっては,投資先を決めた時点で,その事業から得られた収益で再投資する前提で考えているため,利益の刈り取り(配当)よりも利益の濃縮(自社株買い)を好むというわけです。

結果として,自分が企業のオーナー(大株主)なら以下の順でメリットが大きいということになります。

  • 内部留保>自社株買い>配当

直感に反して,配当は一番下ですね。確実な手元利益というのは,逆に言えば,短期的な利益確定でもあります。今後は配当はあまり重視せず,事業の収益性・成長性の方に重きを置いていこうと思います。

投資スタイルと本業

バフェットは,短期的なバリュー投機も行う長期グロース投資家であるというのが,現在の投資スタイルを最もよく表していると思います。現に,バフェットはGEICOという永続的な堀(“enduring moat”)を持つ高収益で長期安定成長可能な企業を最も好んでいます。

バフェットの場合は成長企業の株価が安全圏に落ちてくるのを単に指をくわえて待つだけではなく,「温室の中」に手近な投資機会があります。どちらかと言えば,経営者として温室のオーナー業をこなす方が本業であり,「温室の外」に投資するのはピッチャーのすっぽ抜けの球がたまたま飛んできたときにフルスイングするの近いと思われます。

個人投資家

個人投資家とバークシャーCEOというのは選択肢の幅に差がありすぎて,バフェット流のリターン水準を”確実に達成する”のはかなり難しいです。ここでいう選択肢というのは資金調達の手段から,投資先の幅,あるいは得られる情報の差などありとあらゆるものを指します。今までも日本の証券会社を使っているがゆえに買いたい銘柄(S&P Small Cap 600)を変えずに涙を飲んだことが幾度もあります。

以前は,バフェット流の投資を誰でもできるようなポータル作りを目指していましたが,調べるほどに奥が深く,なかなか皆さんにコツをお伝えできません。もう少し頑張ってみようと思いますが,バフェットの頭の中を公式化したところで,バフェット流投資の「手段」がないというオチになるかもしれません。

その場合は,潔くバフェット流の看板を下ろし,どんな個人投資家でも実践できる投資法をお伝えできるよう方針変更をしようと思います。

One thought on “バークシャー・ハサウェイ(BRK.A/BRK.B)という温室

  • 2016年11月22日 at 7:46 AM
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    ポータル作り応援しています。
    現状でも非常に参考になっています。

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