配当再投資戦略 (2) 失敗事例:IBM

ここしばらくジェレミー・シーゲルの著書を読み返して,配当再投資戦略を練り直しています。前回は配当再投資戦略が有効だった事例として,レイノルズ・アメリカン(RAI)を紹介しました。その記事の中で,2000年〜2015年までの319倍というリターンは,①超高配当な期間が続いたことと,②その後株価が急騰したことの2点が効いていたことを明らかにしました。

さらに配当再投資戦略について詳しく理解するために,今回は配当再投資戦略が失敗に終わった事例を紹介したいと思います。配当再投資戦略によって大きなトータルリターンをあげる銘柄と市場平均を下回るリターンになってしまう銘柄。それらの企業の何が違いを生むのかを分析し,教訓を得たいと思います。

International Business Machines(IBM)

大手ハイテク企業IBM(IBM)に2000年1月1日に$1,000投資し,得られた配当をすべて再投資した場合のリターンを計算してみました。※企業のファンダメンタル分析はリンク先を見てください。

2000年1月1日
評価額:$1,000
株価:$80.76
株数:12.38

2016年2月8日
評価額:$2,137
株価:$131.03 (4/30現在はもう少し上がっていますね)
株数:16.31

15年で2.1倍というのは,S&P500の銘柄の中でもパフォーマンスはよくありません。S&P500の市場平均利回りは7%と言われており,15年で2.75倍ですが,それをも下回っています。

2.1倍のリターンの内訳

株価:$80.76 → $131.03 (1.6倍)
株数:12.38株 →16.31株 (1.3倍)
配当(四半期):$0.12 → $1.3 (10.8倍)
配当利回り:0.58% → 3.62% (624%)

レイノルズ・アメリカン(RAI)のケースと比較すると,株価上昇率・株数増加率のどちらもが見劣りします。かろうじて増配率(15年で10.8倍)だけが勝っています。

IBM_15yr_backtesting

以前,IBMについて分析しましたが,配当・自社株買いともに積極的に行い,株主還元に手を抜いているような企業ではありません。ですが,リターンはボロボロとは言わないまでも,優秀とは言えません。

この原因は,ジェレミー・シーゲルが書いていたとおり,IBMは常に革新的な技術を開発し,将来が有望な企業に見えてしまうが故に,成長の罠に嵌りやすい企業だからだと思います。

まず,株価に目を向けると2000年〜2009年まで株価は$50〜$110程度のレンジを行ったり来たりしており,ほぼ株価上昇はありませんでした。これは,『長期株価低迷期が株数増加につながる』レイノルズ・アメリカンのケースから見て,悪い話ではありません。むしろ願ったりかなったりです。

では,株数は増えたのでしょうか?

残念ながら株数は15年間でわずか1.3倍にしか増加しませんでした。なぜ期待はずれな株数増加になったかというと,2000年当時の配当利回りが悪かったからです。当時,配当は年率0.58%でした。もちろん,IBMは増配を長く続けており,15年間で11倍近い増配を行っていますが,それでも長期株価低迷期間に思いの外配当が安いままであり,再投資効果が得られなかったことが第1の敗因です

第2の敗因は,業績の不振です。

2009年以降復活を遂げたIBMは株価が$200近くまで暴騰しました。しかし,その後,株価はアマゾン(AMZN)やセールスフォース(CRM)などが推し進めるクラウドの逆風にさらされ$120程度まで暴落します。その結果,株価も15年間で1.6倍の上昇に留まりました。

結果として,レイノルズ・アメリカンのケースで得た知見である①「長期低迷+高配当の期間に株数を増やし」②「その後の株価急騰で評価額を増やす」の双方の効果が得られませんでした

配当再投資戦略の失敗例から学ぶTake Home Message

長期投資家がIBMで痛い目に遭うというのは,ジェレミー・シーゲルの著作で有名です。(当時の比較対象は,エクソン・モービル(XOM)とIBMで,エクソン・モービルの方がEPS成長率は低いものの,投資家にとってのトータルリターンは良いという結論です。)

さらに,その話には続きがあり2000年を起点としてもやはりIBMはリターンがあまり良くないのです。

前回のスクリーニング条件にさらに以下の項目を追加しましょう。

1.成長の罠は避ける

投資家がIBMに夢を抱くのは今に始まったことではなく,70年前から変わりません。ENIACの開発やHDDの開発,Fortranの開発,IBM互換PCの普及,人工知能ワトソンの開発など,常に未来志向で我々の生活を変えてきました。今で言うアップル(AAPL)が1940年代からずっと革新的な製品をリリースし続けているようなものです。

ただし,IBMのテクノロジーは我々の生活を変えたものの,「必ずしも市場の独占的な勝者」となったわけではない点が重要です。ゼロックス研究所と同じく,テクノロジーの質(進歩性)とビジネスとしての旨みはかならずしも一致しません。

言い方は悪いですが,IBMが切り開いた市場を,ほかの企業(マイクロソフトなど)に横取りされるケースが多いです。ビジネスアイデアという視点で考えると,ビル・ゲイツやマイケル・デルの方が遙かに切れるので,マーケティングやサプライチェーンのコスト管理能力高い企業の方が,高いリターンを生むのだと思います。

成長の罠を避けるには,「テクノロジーそのものの質」にフォーカスするのではなく,「そのテクノロジーをビジネスに結びつけるアイデアの質」に着目すべきです

さらにその「ビジネスアイデアの質」が優れた企業をバイ・アンド・ホールドして良いかどうかは,四半期決算の数字でのトップライン・ボトムラインを見ていくしかないと思います。

2.業績不振(あるいは業績が予測しづらい)企業は避ける

一見業績不振に陥りそうな企業と,本当に業績不振な企業は別物です。

一見業績不振に陥りそうな企業とは,衰退市場に留まっている企業(たばこ各社やHDDメーカー各社)や道徳的に悪の企業(軍事産業各社)や,訴訟を起こされやすい企業(金融各社)などがあります。しかし,往々にして予測可能なリスクには各社対処できるもので,衰退市場であれば合併して寡占状態を作る(アルトリア(MO)やウィースターン・デジタル(WD)など)とか,訴訟を起こされやすい企業は訴訟慣れしており対策も迅速である(ジョンソン・アンド・ジョンソン(JNJ))とかで,意外に業績への影響は予想ほどは出ないものです。

本当に業績不振な企業とは予測不可能なリスクを抱えている企業であったり,業績回復が期待されつつもなかなか改善が進まない企業です。前者は,IPOして間もない経験値の少ない企業に多いです。また後者は結構やっかいで,「期待で買われ業績で売られる」という景気循環株に多いパターンです。(カミンズ(CMI),キャタピラー(CAT),GE,IBMなど。)

まとめ

配当再投資戦略のまとめとして,以下のスクリーニングをすることをおすすめします。

  1. 安定したキャッシュフローが恒久的に確保できること
  2. 連続増配を続けることができること
  3. 株価が低迷していること,すなわち,超高配当利回りであること
  4. 成長の罠は避けること
  5. 業績不振(あるいは業績が予測しづらい)企業は避けること

 

データ

IBMの2000年以降リターン

Date Dividends 増配額 株価 四半期配当利回り 評価額 株数
2016/02/08 1.3 0 131.03 0.99% 2137.70 16.31
2015/11/06 1.3 0 138.01 0.94% 2229.47 16.15
2015/08/06 1.3 0 145.03 0.90% 2321.07 16.00
2015/05/06 1.3 0.2 165.00 0.79% 2617.20 15.86
2015/02/06 1.1 0 156.32 0.70% 2460.11 15.74
2014/11/06 1.1 0 155.45 0.71% 2429.35 15.63
2014/08/06 1.1 0 183.08 0.60% 2841.02 15.52
2014/05/07 1.1 0.15 174.49 0.63% 2691.53 15.42
2014/02/06 0.95 0 174.24 0.55% 2670.87 15.33
2013/11/06 0.95 0 168.16 0.56% 2563.58 15.25
2013/08/07 0.95 0 169.67 0.56% 2572.11 15.16
2013/05/08 0.95 0.1 192.68 0.49% 2904.61 15.08
2013/02/06 0.85 0 185.15 0.46% 2777.44 15.00
2012/11/07 0.85 0 174.49 0.49% 2605.65 14.93
2012/08/08 0.85 0 178.10 0.48% 2646.65 14.86
2012/05/08 0.85 0.1 175.57 0.48% 2596.63 14.79
2012/02/08 0.75 0 178.31 0.42% 2624.43 14.72
2011/11/08 0.75 0 169.74 0.44% 2487.78 14.66
2011/08/08 0.75 0 154.59 0.49% 2255.79 14.59
2011/05/06 0.75 0.1 151.25 0.50% 2196.42 14.52
2011/02/08 0.65 0 144.29 0.45% 2085.04 14.45
2010/11/08 0.65 0 125.59 0.52% 1806.71 14.39
2010/08/06 0.65 0 108.84 0.60% 1557.58 14.31
2010/05/06 0.65 0.1 110.17 0.59% 1567.35 14.23
2010/02/08 0.55 0 111.27 0.49% 1573.73 14.14
2009/11/06 0.55 0 110.07 0.50% 1549.08 14.07
2009/08/06 0.55 0 102.38 0.54% 1433.69 14.00
2009/05/06 0.55 0.05 91.75 0.60% 1277.89 13.93
2009/02/06 0.5 0 79.03 0.63% 1094.24 13.85
2008/11/06 0.5 0 69.70 0.72% 958.91 13.76
2008/08/06 0.5 0 103.39 0.48% 1412.41 13.66
2008/05/07 0.5 0.1 109.51 0.46% 1488.73 13.59
2008/02/06 0.4 0 95.94 0.42% 1298.38 13.53
2007/11/07 0.4 0 88.29 0.45% 1189.87 13.48
2007/08/08 0.4 0 97.61 0.41% 1309.48 13.42
2007/05/08 0.4 0.1 88.85 0.45% 1187.17 13.36
2007/02/07 0.3 0 77.17 0.39% 1026.41 13.30
2006/11/08 0.3 0 76.09 0.39% 1008.17 13.25
2006/08/08 0.3 0 66.81 0.45% 881.73 13.20
2006/05/08 0.3 0.1 65.66 0.46% 862.74 13.14
2006/02/08 0.2 0 65.71 0.30% 859.37 13.08
2005/11/08 0.2 0 72.61 0.28% 946.85 13.04
2005/08/08 0.2 0 65.69 0.30% 854.25 13.00
2005/05/06 0.2 0.02 61.41 0.33% 796.19 12.96
2005/02/08 0.18 0 75.06 0.24% 969.92 12.92
2004/11/08 0.18 0 76.26 0.24% 983.07 12.89
2004/08/06 0.18 0 68.40 0.26% 879.67 12.86
2004/05/06 0.18 0.02 71.40 0.25% 915.82 12.83
2004/02/06 0.16 0 77.62 0.21% 993.07 12.79
2003/11/06 0.16 0 72.70 0.22% 928.32 12.77
2003/08/06 0.16 0 65.74 0.24% 837.49 12.74
2003/05/07 0.16 0.01 70.43 0.23% 895.09 12.71
2003/02/06 0.15 0 62.24 0.24% 789.27 12.68
2002/11/06 0.15 0 69.27 0.22% 876.27 12.65
2002/08/07 0.15 0 59.96 0.25% 756.90 12.62
2002/05/08 0.15 0.01 63.85 0.23% 804.01 12.59
2002/02/06 0.14 0 77.73 0.18% 976.38 12.56
2001/11/07 0.14 0 91.44 0.15% 1146.65 12.54
2001/08/08 0.14 0 78.97 0.18% 988.76 12.52
2001/05/08 0.14 0.01 88.22 0.16% 1102.58 12.50
2001/02/07 0.13 0 78.74 0.17% 982.47 12.48
2000/11/08 0.13 0 73.61 0.18% 916.97 12.46
2000/08/08 0.13 0 103.80 0.13% 1290.77 12.44
2000/05/08 0.13 0.01 84.28 0.15% 1046.76 12.42
2000/02/08 0.12 0 80.60 0.15% 999.50 12.40
1999/11/08 0.12 0 80.76 0.15% 1000.00 12.38

 

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