有機的成長と無機的成長

企業の成長戦略を分析する上で,有機的成長・無機的成長の区別が重要です。それぞれ,以下のように定義されています。

  1. 有機的成長(Organic Growth);既存事業の成長によって達成される成長
  2. 無機的成長(Inorganic Growth);買収・合併など新しい事業の獲得によ って達成される成長

成長ステージ

企業というのは植物のようなもので,若いうちは肥料(増資)をやればやるほど勢いよく育ち(売上・利益)ますが,ある程度大きくなってしまうと成長が鈍化していきます。そして,成長期を終えるとあとは成熟期に入り,規模を維持し続けるか,あるいは徐々に衰退していくかという一生をたどります。

enterprise_life_cycle

企業の成長ステージ

  1. スタートアップ:いわゆるベンチャーキャピタルなどが丸抱えで企業を創設する時期です。アイデア・コンセプト・ストーリーを買うという意味で,投資家としては最も面白い時期です。
  2. 成長期:上場に成功した後,着実にコンセンサス以上の業績(特に売上成長)を積み上げていくことが必要な時期です。指数関数的な売上成長(で利益は赤字)期を過ぎると徐々に売上も利益も順調に出るようになっていきます。この時期には広く市場に認知され,多くの機関投資家・個人投資家が参戦してきます。
  3. 成熟期:各セクターの首位集団になり一定のシェアを獲得してしまうと,それ以上は競争が厳しくなり右肩上がりの成長は難しくなっていきます。シェア自体は均衡し,セクター自体の成長率とほぼ同じ成長率になってきます。
  4. 衰退期:セクター自体が衰退市場であったり,競合企業に敗れたりして徐々に売上・利益がコンセンサスを下回ってくる時期です。市場自体が衰退傾向であったとしても競合が少ない寡占市場であれば,売上減・利益増ということは可能ですが,限られています。(たばこ産業など)
  5. 再生期:セクター成長率・競争の厳しさを考えて本業の成長が見込めない場合は事業を再編する必要に迫られます。これが有機的成長の限界点です。
    買収や合併,あるいは企業分割によって不採算事業を切り離すことで再び成長路線に戻すことが必要です。成熟期・衰退期にため込んだ内部留保を活用して,買収による多角的経営に進む企業もあれば,売却によってスリム化する企業もあります。これが無機的成長です。

企業というのは主力製品の集合体なので,製品のライフサイクル(下図)を見てもらうのが分かりやすいでしょう。基本,新製品を発売した当初は利益は出ませんが,一定の販売数を超えると損益分岐点を超えて爆発的に利益が増える時期が来ます。(いわゆる,投資を回収できた時期。)

主力製品もいずれは売れ行きが不振となってくれば,別の新製品の開発が必要となります。

product_lifecycle

株における成長分析

多くの会計の教科書に書かれているように,有機的成長率と無機的成長率は以下の計算で求めることができます。

  1. 有機的成長率=ROE×内部留保率=ROE×(1-配当性向)=EPS/株主資本×(1-配当性向)
    要するに,一株上がりの利益(EPS)のうち配当に回さなかった部分(内部留保分)は企業内部に現金等の形で蓄えられます。企業の所有者は株主なので,株券の価値が向上することになります。
  2. 有機的+無機的成長率=EPS成長率=純利益/株主資本の成長率 または
    有機的+無機的成長率=BPS成長率=総資産/株主資本の成長率
    買収や合併,分割により企業の利益や資産は変動します。これらの変動は決算書のバランスシートから求めることができます。個人的には赤字企業にも使えるBPSベースでの計算を好んで使っています。EPSはマイナスに振れることもあるのに対して,BPSは基本は大きく変動しないためです。(あくまで傾向を見るため)
  3. 無機的成長率=2−1

この二つの違いは重要です。なぜなら,経営者の手腕と企業の将来への見通しをこれらの数字から把握することができるからです。

例を見てみましょう。

アップル(AAPL)の場合

2006年からの10年間の数字は以下の通りです。

有機的成長率(ROE x 内部留保率) 29.9%
無機的成長率(BPS成長率) 30.6%

数字はほぼ同じです。基本的にアップルは本業の成長によりここ10年急成長を遂げてきたと言えます。有機的成長企業ですね。

アルトリア・グループ(MO)の場合

2006年からの10年間の数字は以下の通りです。

有機的成長率(ROE x 内部留保率) 13.8%
無機的成長率(BPS成長率) -22.8%

なぜ有機・無機の差がこんなに大きくなるのでしょうか?

その理由は,アルトリア・グループが2007年にクラフト・フーズ(KHC)をスピンオフ,さらに2008年にフィリップ・モリス(PM)をスピンオフしたことによります。この二つの「企業分割」でBPSは約1/15にまで縮小されました。

BPSだけを見ているとアルトリア・グループ(MO)の企業サイズが小さくなっているので失敗に思えますが,EPSに着目するとまた違った面が見えてきます。BPSが1/15になった一方,EPSは1/3程度にしか下がっていません。すなわち,アルトリア・グループの中核事業である高収益のたばこ事業の利益がそのまま企業業績として見えるようになったため,ROEは2006年の31.9%から2009年の93.0%まで3倍に伸びています。株主にとって嬉しい有機的成長企業として再生できたことになります。

(注:もともとアルトリア・グループはここ70年間で見ても多角的経営時期を含めて超優良企業であり,スピンオフのことを再生という言葉で呼ぶには語弊がありますが,分かりやすい高ROEは投資家の注目を集める上で成功だったと思います。)

 

以上のように,企業の成長率を分析する上で,有機的成長率・無機的成長率の数字を追いかけていけば,その企業の経営者が①本業の成長自体を推進するのが得意なタイプ(スティーブ・ジョブス),②事業再編によるポートフォリオ改善が得意なタイプかといったことが判断できます。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です