トランプと民主主義の衰退

タイトルはフランシス・フクヤマ氏の最近の記事のタイトルです。

フランシス・フクヤマ氏は米国のシンクタンク CFR(外交問題評議会)のメンバーの一員で著名な外交・政治評論家として知られています。フクヤマ氏はここ数年に渡って「民主主義の衰退(Political Decay)」をテーマに米国の政治の根底にある,人々の価値観の変化や社会の変化について論評しています。

今回のトランプ旋風についても,米国の労働者階級が政界から無視され格差が拡大し,その怒りがトランプへの投票行動につながったと分析しています。自由民主主義というシステム自体は,フランス革命による王制の打倒,ナポレオン法典という法の支配,議会や政府という行政機関の確立,そして三権分立による監視などを経て現在にいたり,資本主義経済の近代化と足並みを揃えつつ進化してきたわけですが,それがここにきて『衰退(decay=衰退,あるいは老朽化のこと)』していると指摘しています。

なぜ民主主義は衰退したのか?

フランシス・フクヤマ氏は,現在の米国は「拒否型民主主義,ベトクラシー(vetocracy=veto(拒否)+demoracy(民主主義)」に陥っているとのこと。

米国のベトクラシーのひとつ目の原因は,議会や社会の中での党派対立が先鋭化し,解決策を提示できなくなっている問題があります。

ここ数年のオバマ政権を見ていても,連邦政府の債務問題や税制あるいは医療制度改革などの現実的な政治課題について調整が昔よりも困難になっています。米国人がノスタルジーを抱く「強き良きアメリカ=レーガン政権時代」は共和党と民主党の政策的な妥結が見られましたが,今はそれも機能不全状態になってしまっています。

二つめの原因は,利益団体(interest groups)の影響力の拡大です。

利益団体というと,たとえば全米ライフル協会やウォール街などが挙げられますが,特定の集団の利益を代表するロビイストたちが,以前にも増して政治献金や選挙活動支援などを通じて,自らの集団の利益につながるような法制を通せるようになったということです。たとえば,ヘッジファンドは税率15%ですが,一般市民の税率は40%とのこと。(なんの税率化はよく知りませんが。)

怒り

このように「野党による拒否」「利益団体のによる拒否」によって,労働者階級が直面する格差の問題や医療費高騰の問題に対して政権がろくに手を打てないことに苛立っていたということです。

もちろん,米国ではポリティカル・コレクトネストいう自己検閲がエチケットとされているので,表立って暴言王トランプを支持はできないですが,トランプの方が少なくとも「強い決断力のあるリーダー像」は提示できていたと思います。また,白人層の価値観の根底には「人種差別や偏見とまではいかないが,白人層が被っている不利な立場に対する不安・不満」がくすぶっているとのこと。これはオバマ政権という黒人政権への反作用でしょう。オバマは人種・性癖(LGBT)を問わず平等を目指しましたが,結果の平等を目指すあまり,検閲が強化されるという事態になっています。ハリウッドやシリコンバレーは極めてリベラルな人が集まりやすいので,日本人の目に映る米国像は”超リベラル”ですが,実際には過半数の白人層は保守的な価値観であることが見落とされてきました。それがいま噴出したのでしょう。

それに対し,ヒラリー・クリントンはどう見てもウォール街の犬であり,ウォーレン・バフェットといった経済界重鎮やハリウッドまでが総出で支援する既得権益代表者にしか映らなかったでしょう。ヒラリー候補も民主党のサンダース候補に強く影響を受けて医療費の値下げには積極的でしたが,それ以外はオバマ政権の延長で,”アンチェンジ”(政策は変更しません)を訴えていました。

しかし,解決には至らない

トランプの当選の理由は「無視された白人労働者階級の怒り」であるというのが,フクヤマ氏の見立てでした。

では,この選挙の結果,彼らは報われるのかというと,フクヤマ氏はそうではないと見ます。

それは,現時点ではトランプ氏の側近たちは米国が直面する課題を解決する対策を何ら持っていないからです。

白人労働者階級の不満のひとつは,これまで主要な雇用先であった製造業が人を雇わなくなったことです。製造業が雇用者数を減らしているのは,製造業が不況に陥っているからではなく,実は製造業は2008年以来成長を続けています。では,なぜ雇用者数が現象しているかというと,工場のオートメーション化が主な原因です。

テスラ・モータース(TSLA)の工場を見ても,約半分はオートメーション化されたロボットが板金を切断し,加工し,溶接し,組み立てています。ここには確かに労働者はいますが,これらのロボットの制御や物流の管理のための人間ばかりです。古き良き「高給取りの組立工」という職業自体が徐々に減少しているというファンダメンタルな変化は今後も不可逆な変化なので,長期にわたって製造業は雇用の受け皿にはならないはず。

にもかかわらず,トランプはNAFTAのような自由貿易協定を見直すことで,工場を米国内に戻しさえすれば良いと考えており,これは安直すぎて解決にならないんじゃないかという悲観論が今の米国を覆っているということです。

果たして,これらの悲観を物ともせずに,トランプがリーダーシップを発揮して,Greatなアメリカを作り出すことができるのか?私は,当面は期待しながら見守りたいと思います。

企業でいうと米国は,超ワイドモート企業に相当します。

基軸通貨(社債の無限発行権を持つようなもの),世界最大の国力(マーケットシェア1位),世界の半分を締める軍事力(債務の取り立て能力),外交的地位(ルールは米国が決める,スタンダードも米国が決める)など,どれも素晴らしいものばかり。唯一欠損しているのが,政治だけだと言っても過言ではないのではないでしょうか?

米国外の一市民から見れば恵まれすぎており,政治というキーパーツがうまく揃えば(トランプが大化けすれば)米国の未来に悲観すべき要素はそう多くありません。

フランシス・フクヤマとは違って私は民主主義に多くを期待しない分,好意的に捉えています。結果がどうであれ,4年間トランプを楽しみましょう。

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