アマゾン化時代の投資法

多くの業界においてアマゾン(AMZN)の躍進によって業界構造が一変したことで,「アマゾン化されない(Un-Amazonable)な業界はどこか?」という目線で眺めることが必要になりました。アマゾンの動向の現状を整理してみたいと思います。

元はと言えば,2015年頃からメイシーズ(M)などの売上が大きく落ち込む一方で,アマゾン(AMZN)の売上が大きく成長したことで,アパレルなどの販売に依存している小売店の「アマゾン化した(Amazoned)」が叫ばれるようになりました。米国の地方に散在するショッピングモールにとってメイシーズは”目玉店舗(テナント)”であっただけに,モールの閉鎖も相次いでいると聞きます。

アマゾン化(Amazoned)

 

こうしたアマゾン化現象をまず見ていきましょう。

アパレル小売業がアマゾン化されたのは,Eコマースでも十分に商品を選択できるだけの情報が提供され,返品制度などが充実したことが大きな要因です。情報が十分で返品もできるとなれば,わざわざデパートで試着室の前に行列を作るのは面倒なので自宅でゆっくり試着したいという消費者が増えるのも当然のことです。むしろ,店舗に行かなくても在庫が確認できるという意味で,「似たような服を探すのに多くの店舗を見て回らないといけない」「気に入ったけど,サイズがちょっと合わないで買えず」といった悩みを事前に避けることができ,消費者は不便・機会損失を減らせます。

また,別の業界で言うと出版が特にアマゾン化されています。日本においては角川出版などがアマゾンと直接取引をするようになり,大阪屋などの出版取次業が大打撃を受けています。これも,売れ残りは強制的に出版社に買い取りさせるなどの旧態依然とした「取次が王様」ルールがまかり通っていた出版流通業界において,低マージンで苦しめられていた出版業界の不利な立場を救うディールを提示できたアマゾンの作戦勝ちです。

以上のように,アマゾン化する業界というのはいくつかの癖があることが分かります。たとえば,消費者が潜在的に不便を感じているケースや,業界構造の中に仲介などの高マージンゾーンがあり潜在的に一部企業が不利な立場に置かれているケース,などです。まさに業界構造の破壊者(disrupter)として,業界の弱い部分(weak link)を攻めれば勝率が高いと言うことをアマゾンが学習してきたと言えるでしょう。

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私個人はアマゾンはすでにいくつかの業界でティッピングポイントを越え,ワイドモートを築き上げていると思います。具体的には,電子出版,出版・日用雑貨品・家電などの小売り業,クラウドなどのウェブサービスなどです。特にキンドルは圧倒的であり,すでにプラットフォームとして揺るぎないものになっています。またウェブサービス系の企業にとってアマゾンのプラットフォームはコスト・利便性を考えると,極めて乗り換えコストの高いプラットフォームとなっています。(たとえば,ネットフリックス(NFLX)は100%AWSクラウド上でサービスを提供しています。)

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アマゾンとのつきあい方

では,ありとあらゆる業界にアマゾンが進出して席巻するかというと,そんなわけはありません。アマゾンが進出できない業界も存在します。また,アマゾン化(Amazoned)とアマゾン化しない(Un-Amazonable)とは別の,第三のポジションとして,アマゾンを最大限利用する(Adapt-to-Amazon)の立場があると思います。

種類 業界 関連
Amazoned アマゾン化した アマゾンの強い業界
電子出版(kindle)
出版
日用品小売り(定期便)
アパレル小売り
クラウド,ウェブ・サービス
映像・音楽配信
打撃を受けた業界
楽天(kobo)
取次,町の本屋
スーパー・ドラッグストア
デパート系小売り業(メイシーズ(M)
マイクロソフト(MSFT),IBM(IBM),オラクル(ORCL)
Un-Amazonable アマゾン化しない アマゾンの苦手業界
化粧品小売り
会員制小売り
住宅関連小売り
アマゾン耐性のある企業
アルタ・サロン(ULTA)
コストコ(COST)
ホーム・デポ(HD),ロウズ(LOW)
Adapt-to-Amazon アマゾンを最大限利用する アマゾンを利用する業界
ウェブ企業
出版業
各種メーカー
電子出版
アマゾン利用企業
ネットフリックス(NFLX)
直接アマゾンに卸す出版社
P&G(PG),コルゲート・パーモリーブ(CL),ライオン,花王など
個人作家

アマゾン化しない(Un-Amazonable)企業

まず,アマゾン化しない企業について調べてみましょう。ジム・クレイマーの挙げるUn-Amazonable企業は以下の通りです。

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一目見て分かるとおり,これらの企業はそれぞれの業界において圧倒的なブランド力とサービスを有しており,他社と差別化できていることが分かります。たとえば,コストコ(COST)は会員制スーパーですが「会費を払うことでバルク買いで激安に商品が手に入る」というアメリカのライフスタイルそのものを象徴する企業です。この「会費」「会員」という堀は顧客を囲い込みロイヤリティを保つ上で重要であり,アマゾン自身もプライム会員という形でそっくり真似をしているほどです。

また,アルタ・サロン(ULTA)は,Youtubeを見ればすぐ気づきますが,メイクアップが趣味の女性にとっての楽園とも言うべき場所です。日本からも海外通販で購入している方もいるぐらいですし,その買い方は半端無い分量です。16色パレットみたいなのを5種類も6種類も一度に買っては試し,Youtubeでそれぞれのレビューを投稿したり,メイクの技術を公開したりしてくれています。「One-Stop Shopping」として一店舗でありとあらゆるものが一度で手に入る便利さと,店員のアドバイスの的確さ,Ultaで買うという楽しさ・満足感が,顧客に心を鷲掴みしています。

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ホーム・デポ(HD)もまた,アルタ・サロン(ULTA)に似た感じで,住宅修繕用品と言えば何でも揃うし,専門知識のある店員に相談したり,据付を頼んだりできるという意味での差別化が功を奏しています。

こうしたアマゾン化しない(Un-Amazonable)企業に共通しているのは,顧客への利便性・楽しさ・相談できるアドバイザーの充実などといった点で他社を引き離している超優良小売店である点です。(逆に言えば,化粧品業界の中でも単なるドラッグストア的な店は,アマゾンに市場を奪われるリスクは高いです。)また,アマゾンの脅威を感じつつもEコマースへの投資を行いサービスの質を高めています。アマゾンとサービス競争・価格競争をする中でさらに企業価値を高めていく可能性が高い企業群だと思います。むしろ,中途半端なサービスの競合他社をアマゾンが駆逐してくれるため,下が脱落してくれると言う意味で寡占状態となっていくと見ます。

アマゾンを利用する企業(Adapt-to-Amazon)

アマゾンを利用するという意味では,AWS上でサービスを提供する企業は全てアマゾンの恩恵を最大限に受けていると言えるでしょう。少なくとも10年前(AWSが2006年に誕生する前)には,こうした恩恵は受けられず,何らかのウェブ・サービスを提供しようと思えば,高価なサーバーを自社で購入しメンテナンスをしないといけませんでした。莫大な初期投資とメンテナンス用人材という意味でのランニングコストが利益を圧迫したことでしょう。

しかし,今や激安でウェブ・サービスを利用できることで,アマゾンはさまざまなスタートアップ企業を生み出し育てていく「ウェブ業界の豊かな土壌」となりました。こうした「生まれも育ちもアマゾン(AWS)」という企業にとって,プラットフォームを乗り換えるのは,非常にコストが高くつきます。これは,エコノミック・モートの条件でいうところの「ネットワーク効果」「乗り換えコスト」に相当します。要は今後長期間にわたってアマゾンは優良な法人顧客を多数抱えており,それらの企業が成功すれば必然的にアマゾンにとっての利益にも繋がるというわけです。アマゾンという巨人の方の上に乗る小人が大きくなれば,巨人であるアマゾンも大きくなる。Win-Winですね。

また,アマゾンの巨大な購買力に着目して,日用品メーカーなどはアマゾン専用プライベート・ブランドなどを開発するようになりました。アマゾンは定期便などの制度を拡充することで,コンスタントに購買が見込める顧客を囲い込むことに成功し,在庫の変動を最小限に抑えつつ,大量の購買力を利用してメーカーから安値で製品を仕入れています。(メーカーからしても,「毎月確実に10万個仕入れてくれる」アマゾンは売上安定のための柱となっています。多少マージンが低くてもカバーできるだけのバルク買いをしてくれるなら,それは両者にとってメリットがあるというのが,ウォルマート(WMT)以来のメーカー・ディスカウントスーパーの関係です。)

アマゾン進出先の特徴

今後,どの業界にアマゾンが進出してくるかは予測が難しいですが,常に考えないといけない時代になりました。ただ,アマゾンは無軌道に戦線を拡大しているのではないことは確かです。今までの進出具合を見てみると,①まず自社の社内インフラを抜本的に改善するために投資を行い,②次にそれを汎用化して社外に提供する,という繰り返しで成り立っています。

例を挙げるならば,アマゾンの流通革命は基本的には本・日用品などをいかに効率よく安価に顧客に届けるかという観点で,当初は他社に委託していた倉庫業・流通業をどんどん自社の領域に取り込み,結果的に他社よりも効率化できてしまったという感じになっています。いまやマーケット・プレイスなどは,逆によその小売店のためにアマゾンの倉庫・流通・決済システムをレンタルしているようなものです。

また,ウェブ・サービスも当初はアマゾン自身のためのインフラとして自社開発したものですが,汎用的に設計したおかげで他社にとっても使いやすく,安価なサービスとなりました。

このように,最初から他社にサービス展開する前提と言うよりは,自社の改善を突き詰めたことで,結果的に競合より遙かに優れたシステム・サービスを用意できているという感じに近いです。この「改善を突き詰める」点がアマゾンの(あるいはジェフ・ベゾスの)企業文化であり,強みです。通常は,横並びより少し抜け出した程度で満足してしまいがちですが,他社より一桁・二桁上の効率化を図るという目標を持っており,この点はグーグル(GOOGL)がインフラ開発に投資を行い,スケーリングの問題を根本的に解決したことで,最終的にヤフー(YHOO)よりコスト・性能・開発スピードで上回ったという逸話と類似しています。

アマゾン化時代の投資法

こうした,速い速度で成長するアマゾンに対してどう投資家は考えればよいかですが,アマゾンという乱入者(intruder)に対して,誰が一番不利益を被るかという観点で見ると良いと思います。

結果的に,業界内で優位性を維持できる企業(Un-Amazonableな企業),または,アマゾンという巨人の肩に乗って最大限活用する企業(Adapt-to-Amazonな企業)に投資すべきという結論になります。

まず,アマゾンの優位な業界において直接競合する企業は,厳しい闘いを覚悟しないといけないでしょう。具体的には,電子出版業,映像・音楽配信業,クラウドサービスなどを提供するインフラ系の企業です。アマゾンは利益を出さず,CFを全て投資する方針ですので,競合よりも基本的には安価にサービスを提供できる優位性があります。(今後数年間に限っての話ですが。)

次に,今後の投資対象とすべきアマゾン化しないUn-Amazonableな企業とは,現時点である製品群・業界においてサービス面で圧倒的なモートを築き上げており,さらにアマゾンの得意なEコマースの領域にも対策を打っている企業です。最も成功しているのはアルタ(ULTA)だと思いますが,こうした企業はアマゾンの影響を受けずに成長を続けると思います。なぜなら,アマゾンの戦線は拡大の一途をたどっており,個別の領域に限って専門的なサービスを提供することは苦手だからです。しかも,アマゾンが弱小ライバルを弱らせてくれます。(アマゾン全社と戦うわけではなく)アマゾンの一部の部門と同じ早さで,より顧客満足度の高いサービスを提供することでモートを深めていけば業界の中における相対的な優位は保てます。ホーム・デポ(HD)などもこのような恩恵を受けている側の企業です。

アマゾンを利用するAdapt-to-Amazonな企業は,アマゾンの優位な土俵(ネットサービス,流通,小売り)をインフラとして利用する企業です。インフラとしてのアマゾンは,利益度外視で高品質なサービスを提供してくれているわけで,コストパフォーマンスは抜群です。これを利用しない手はありません。

種類 特徴
Amazoned アマゾン化した 顧客に不便を強いている
業界の一部に偏った高マージン領域がある(不平・不満)
Un-Amazonable アマゾン化しない 顧客サービスが抜群
Eコマースに力を入れ,アマゾン対策を打っている
Adapt-to-Amazon アマゾンを最大限利用する 最初から生まれも育ちもアマゾン
アマゾンの流通網・AWSをインフラとして活用

 

 

4 thoughts on “アマゾン化時代の投資法

  • 2016年6月6日 at 10:07 AM
    Permalink

    いつも有益な記事をありがとうございます。

    当方もアマゾンの脅威により小売業は何となく避けた方がいい程度の危機感は持っていましたが、詳細なレポートにより、考えが整理された感じです。
    おっしゃるように、小売業で生き残るのは何らかの専門性などがある業者やアマゾンを利用できる業者でしょう。
    当方は、アマゾンの脅威でも生き残るのは、ルイヴィトンやエルメス、シャネルといった高級ブランドとみていましたが(高級ブランドは高級な旗艦店の雰囲気や店員の洗練された接客態度、真似できない品質、歴史と伝統などeconomic moatあり)、汎用品である化粧品でもアルタサロンのような工夫をすれば面白いでかもしれません。

    また、おっしゃる通り私が留学していたのは英国です。
    ペンブルックはペンブルック伯爵からいただきました。英国貴族は今でも城に住んでいて大金持ちであるので、あやかりたいと思いましてペンネームにしました。

    英国や米国を見ていて思うのは、権利、利益、財産、自由、というものが本当に大切に保護されているということです。
    英国では上流階級(upper class)である貴族とジェントリ(バロネット・ナイト・エスクワイアの地主階級)は代々富裕層です。筆頭公爵のノーフォーク公はアランデル城というお城に代々住んでいますし、競馬で有名なダービー伯も英国有数の富裕貴族です。
    また、アメリカも植民地建国の父の家系はいまでも富裕層です。またいったん富裕層になったロックフェラー、モルガン、カーネギー、ヴァンダービルドも今でも富裕層のままです。

    ピケティ教授が看破したように、r(資本収益率)>g(経済成長率)となるので、資本が資本を生む、すなわち、戦争など所得が平らになる特殊事情がない限り、資本を持っている者はますます有利になっていくのでしょう。
    英国も米国も長い間戦争に負けていないですので、富裕層はますます富裕になっていくのでしょう。
    その米国でも昔は北部と南部は同じくらい豊かだったらしいですが、南北戦争という市民戦争で南部が敗北して没落して以来、南部は北部に比べて貧しい州が多いままの状態となっています。
    逆に日本では、明治維新により大名家が所有していた城を壊したり、接取したりと権利や財産の保護がなされていない気がします。法の整備された近代では英国貴族が自分の城を政府に取り上げられたなどということはないです。
    なので、英米の株式市場は資本を持つもの、すなわち株主を大切にする伝統が生きていると思い、特に米国の株式市場は世界最大で公平ですので、米国株式市場への投資が一番堅実であるように思えます。

    確かに、英米はすさまじい格差社会で、特に英国は階級の壁が大きく(upper,upper-middle,middle-middle,lower-middle,workingという5つの階級あり)、這い上がるのは事実上不可能です。階級ごとで使っている言葉が違うし、アクセントも違いますし、そもそもお互いに交流しないです。
    アメリカも格差が大きく、ビル・ゲイツもバフェットも中流階級の上の家庭からスタートしているので高度な教育を受けていますが、金銭的な面から教育を受けられず医療保険も入れない人もたくさんいますので、アメリカンドリームというものが事実上不可能になってきていると言われています。

    日本も格差社会に入りつつありますが、英米ほど極端ではないので、日本人にとっては
    株式投資は株主重視してくれる米国で
    住むのは日本で(または投資の税金のかからないシンガポール、香港、マレーシアなども選択可能だし)
    という贅沢ができるので、その点は幸せなのかもしれません。

    バフェットの投資タイミングは学びたいですが、やはり、経営陣等の情報に熟知しているバフェットだからできることなのでしょうか。
    バフェットからの手紙を見てみると、バフェットが最初にウェルズファーゴに投資したのは1990年10月ですが、その時、「ウェルズファーゴは死んだガチョウ」とか「バフェットはこれからも銀行株の底値を拾っていくなら彼の遺産を誰が使うかそんなに長く悩む必要はなくなるだろう」と批判されています。
    それでもバフェットは、経営陣の効率的な経営姿勢、確率的にカリフォルニアに大地震が起きる可能性や貸し倒れ率の計算などをして、最終的にウェルズファーゴへの投資を決定したと記載されています。2008年は言及したものがないので不明ですが、彼なりの計算はあるのでしょう。

    バフェットのように毎年20%以上のリターンを出すのは不可能ですが、S&P500の8%台には勝ちたいと思っています。

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