セクター分析(2) ヘルスケアセクターの医薬品グループ

前回:セクター分析(1) ヘルスケアセクターの医薬品グループにて,疾患別の売上高の2008年〜2015年までの推移を見てきました。その振り返りから。

1点目の特徴として,世界の人口動態の高齢化にともない,抗がん剤の市場が着実に成長を続けています。今後少なくとも半世紀にわたって,先進国や中進国を中心に高齢化が止まらないと考えられており,抗がん剤にコア・ビジネスを築いている企業は有利です。

もちろん,どんなブロックバスターも特許20年が過ぎてしまえばあっという間にジェネリックとの価格競争に巻き込まれるため,絶えず研究開発において他社をリードし続ける必要があります。

2点目の特徴は,リウマチなどの免疫疾患や糖尿病などの生活習慣病が増加傾向にあります。自己免疫疾患については遺伝の影響も大きいのでおいておきますが,糖尿病増加の原因は明らかです。それは加齢に伴う代謝の低下で高齢者の肥満が増加したこと(これは先進国のケース),低所得者層の食生活が高カロリーになったこと(米国の黒人層や,中印などの中進国のケース)の2つです。

1点目の「癌」と同じですが,「糖尿病」も社会構造(人口動態や経済格差による入手可能な食事の種類の差)が原因となっており,中長期的に改善される見込みはありません。21世紀を通じて,人類がなが〜いおつきあいをしていかなければならない疾患でしょう。

以上が前回の振り返りです。

処方薬別売上高推移

今回は処方薬売上の変化に着目し,どういう分野に次のブロックバスターが期待できるかを見てみましょう。下図が2008年〜2015年の処方薬売上の推移です。

pharmaceutical_products_sales

Disease Company Products 2015年売上($Mil)
遺伝子型1型のC型肝炎 Gilead Sciences HARVONI 18,144
リウマチ AbbVie HUMIRA 14,950
糖尿病タイプ1,2 Sanofi LANTUS 11,458
リウマチ Amgen ENBREL 9,471
コレステロール AstraZeneca,塩野義製薬 CRESTOR 8,608
リウマチ Centocor Ortho Biotech,三菱田辺製薬 REMICADE 8,195
喘息 GlaxoSmithKline SERETIDE 7,996
遺伝子型2型のC型肝炎 Gilead Sciences SOVALDI 6,578
リウマチ Biogen, 中外製薬/Roche MABTHERA 6,298
抗がん剤 Generic/Roche AVASTIN 6,183
神経障害性疼痛 Pfizer LYRICA 6,035
成人統合失調症 Generic ABILIFY 5,799
糖尿病タイプ1,2 Novo Nordisk NOVORAPID 5,612
抗がん剤 中外製薬,Genentech/Roche HERCEPTIN 5,596
糖尿病タイプ2 Merck JANUVIA 5,440
慢性閉塞性肺疾患 Boehringer Ingelheim SPIRIVA 5,364
経口抗凝固薬 Bayer XARELTO 5,144
胃腸障害 Generic NEXIUM 5,065
多発性硬化症 Generic COPAXONE 5,050
好中球減少症 Amgen NEULASTA 4,737

一目見て分かるのが,ハーボニ・ソバルディの躍進です。ソバルディはウイルスがRNAを複製する際に用いるRNAポリメラーゼ阻害剤で,完治率が極めて高いことが特徴です。ギリアド・サイエンシズ(GILD)は元々,HIVウイルスなどの治療薬に強い会社でしたが,現在は売上の6割をC型肝炎治療薬が占めるまでになっています。現在はアッビィ(ABBV)のヴィキラ・パックなどの競合製品も出てきてはいますが,抗ウイルス薬市場においてギリアド・サイエンシズは大きくリードしていると言えるでしょう。

続いて目にとまるのがアッビィ(ABBV)のヒュミラやアムジェン(AMGN)のエンブレルです。ヒュミラやエンブレルは遺伝子組み換えによって作られた抗体医薬品で,分子標的型の治療薬です。長年有効な治療法がなかった関節リウマチおよびその他の免疫疾患に対する特効薬となっています。

2000年代以降,低分子医薬での新薬発見が難しくなり,大手製薬は抗体医薬(従来より高分子で,標的となるタンパクなどに直接作用する分子標的治療を目的とする)に力を入れるようになりました。その成果が現在花開いている状態です。

今後のブロックバスターを求めて

今のメガファーマのトレンドは,(1) 分子標的治療,(2) 遺伝子治療,(3) 免疫治療,(4) 再生医療に集約できると思います。この順番は短期的に注目に値する順に並べています。

(1)の分子標的薬は上述したヒュミラやエンブレルが相当しますが,抗がん剤のアバスチンほか多数のブロックバスターを生み出しています。以前,テサーロ社の記事で取り上げたPARP阻害剤なども分子標的薬の一種です。分子標的治療にもさまざまな手法があり,低分子医薬から高分子の抗体医薬まで幅広くウォッチする必要があります。今後も目が離せません。

(2)の遺伝子治療は,次世代の医療技術と言われていますが,昨今の遺伝子組み換え技術の進歩は目覚ましく,CRISPR/Casという技術を使えばDNAやRNAの特定の位置を切断すると言ったことが簡単にできるようになっています。短期的な投資家向きではないですが,バフェット流の長期投資家の方は地道に調査をすることをおすすめします。

(3)の免疫治療は,ヒトのもつ免疫機構を利用して効果を発現させる治療法です。我々の体は異物を排除するために自動的に抗原が生成され,免疫が働きます。癌細胞はこの免疫を無力化するために腫瘍化するわけですが,特定の免疫治療薬(ワクチンのようなもの)を使うことで,癌細胞を標的として免疫を作用させることが可能になります。これも,いずれFDAの承認がおりれば普及するでしょう。

(4)の再生医療は山中教授のiPS細胞以降ブームが収束してしまいましたが,産業的な活用はまだまだこれからです。一大市場になるまでには時間が掛かるでしょうが,医薬品とは異なったアプローチの治療法ですので,新規市場の創造が期待できます。

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