ヘルスケアセクターの買収動向と有望な小型株

ヘルスケアセクターの買収

ニラパリブなどの抗がん剤開発で知られる小型株のテサロ(TSRO)が,仏サノフィ(SNY)や米ギリアド・サイエンシズ(GILD)など複数の製薬企業から買収ターゲットとされているとの噂が広まっています。

情報の発信元はロイター通信で,インサイダー情報によるとテサロはシティーバンク(C)をはじめとする複数の投資銀行に買収提案に対する回答をどうすべきかを相談しているという状況のようです。

買収というのは通常,買収する側の株価が5%〜10%下がり,買収される側の株価が数倍にも高騰します。

というのも,買収というのは市場価値に対して,プレミアムを支払って購入するものだからです。買い手からすると割高な買い物になりがちです。

ただし,プレミアムというのは理不尽なボッタクリというわけではなく,会計上は「事業価値から生じる”のれん”(無形資産)」を簿価に上乗せして購入する行為だとされており,将来の収益性に対する評価が高ければ”のれん”は高くなります。

買収というのは,企業の一部を買うのではなく,全てを買うことなので,目に見えていない価値まで含めて,きちんと評価して帳簿に載せる行為に他なりません。

上記のテサロ(TSRO)は卵巣癌において効果が確認されたニラパリブを2017年に発売予定で,その新薬の売り上げはまだ立っていません。現在の帳簿上は売り上げも小さい赤字企業なわけですが,しかし保有しているパテント(新薬)の価値が数千億円相当の価値があるとみられているのです。

振り返ってみると,ギリアド・サイエンシズのハーボニ・ソバルディも買収によって獲得した新薬パイプラインであり,高額買収が成功して1年間で1兆円を売り上げる化け物のようなヒットを飛ばしました。

残念ながら卵巣癌というのはそこまで市場規模はそもそも大きくないですが,ニラパリブは抗がん剤の作用を補助する(具体的には,人体のDNA補修能力を一時的に無力化することで,ガンが復活するのを妨げる)組合せ薬なので,すでに抗がん剤を持っている企業にとっては,共食いにはならず,むしろ「抗がん剤+ニラパリブ」で効果が倍増しますよ,という感じでパッケージ販売することでシナジーが発生する薬です。

だからこその買収合戦でしょう。

ちなみに,抗がん剤に強い企業というのは,例えば,スイスのロッシュや仏サノフィ(SNY)です。サノフィはノボ・ノルディスク(NVO)やイーライ・リリー(LLY)と並ぶ糖尿病の大手ですが,糖尿病だけではなく抗がん剤にも力を入れており,ポートフォリオの分散を図っています。

買収ターゲットとなるのは?

最近では,マイクロソフト(MSFT)がLinkedin(LNKD)を買収したり,ブリティッシュ・アメリカン・タバコ(BTI)からレイノルズ・アメリカン(RAI)が買収提案を受けたりと大型買収も目立ちますが,通常は買収ターゲットとなるのは成長性の高い有望な小型株です。

ベンチャーの青田買いだったり,高収益なニッチ企業だったりします。

ここで重要なのが,株としての割安と,完全買収における割安というのは別物だということです。

「割安」というキーワードには色々基準があって言葉のインフレだということを書きましたが,完全買収する場合はPERはあまりアテになりません。別の思惑が強く働くからです。

買収を行う買い手のCEOの立場に立ってみると,株主から厳しい成長戦略への突き上げを食らっており,何とかして今後3年間の「成長戦略」を提示しないといけません。(それができないと,増資も,借り入れもできないので)

そうした中で買収という手法は,比較的多くの関係者を納得させやすいシナリオです。

では,どうやって買収ターゲットを選ぶかですが

  • 自社の時価総額に対して十分に小さい企業か?
    自社のキャッシュ+株式交換+増資+新規借り入れというファイナンスによって買収可能な規模かどうかということです。大きすぎる企業は買えません。
  • 成長性は十分か?
    買収の目的は,成長戦略です。自社の成長性よりも低い成長率の企業を買うことは通常ありません。
    (タバコ業界の合併や,石油業界の合併などは規模の経済によるコストダウンを目的とするので,今回の記事の本筋からちょっと離れます。)
  • 借り入れで賄う場合
    借り入れにより自社のバランスシートがいびつになる場合は,何年程度の内部留保積み増し(自社株買いの停止や配当停止)で元のバランスに戻るかを計算します。「株主還元が一時的に少なくなるけど,将来成長するから許してくれ」というお願いを株主総会でするわけですが,許してもらえるのはせいぜい数年のオーダーでしょう。

こうした条件を勘案して,株主や債権者や投資銀行が納得すればめでたく買収提案となります。

はっきりって,バフェットならこれに「ターゲット企業の内在的価値が,時価総額より大きいか」という項目を付け加えると思いますが,まあ,そんな悠長なことを言っていられるのはバフェットぐらいで,多くの雇われCEOは,多少高値でも思い切って勝負に出ます。

こうした背景があるため,現在の低金利状態のうちに買収したいと考える企業が多いので,小型株(特に割安になっているヘルスケアセクター)は,買収のターゲットになりやすいと思います。

ヘルスケアセクターは割安銘柄が多すぎてウォッチしきれていませんが,類似カテゴリーごとに整理していく予定です。(抗がん剤関連とか,ウイルス・ワクチン関連とか,糖尿病関連とか,喘息関連とか,のグルーピングですね。)

買収ターゲット狙いの投資法

買収ターゲットとなる企業を見極められれば数倍のリターンは堅いので,地道な長時間作業に見合った収益が得られます。

時間がたんまりある専業投資家,あるいは引退後のシニア投資家,アーリーリタイヤ投資家向けの投資法だと思います。決してサラリーマン投資家のような片手間の人にはオススメしません。(銘柄選択をミスすると,売り上げもろくに上がらないボロ株塩漬けになってしまうので。)

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