テサーロのニラパリブ効果と遺伝子診断のハイエナ

テサーロ(TSRO)のNiraparibはPARP阻害剤として来年にも上市されようとしている卵巣癌治療薬です。難病治療薬の開発ということで”応援投資”に最適な銘柄の一つです。

AASJの西川先生の記事『10月13日:卵巣癌に対するPARP阻害剤の効果(10月8日号The New England Journal of Medicine掲載論文)』などを参照ください。

そもそもPARP阻害剤というのは使い方,効果の発現のされ方が複雑なので,順を追って説明すると,

  • PARP阻害剤は抗がん剤ではない
  • PARP阻害剤はプラチナ製剤(白金を含む抗がん剤)と併用する薬である
  • PARP阻害剤は抗がん剤の治療効果を高める

というところに特徴があります。抗がん剤のブースター的な補助薬剤と言うことです。

では,次にどういう仕組みで抗がん剤の効果を高めるかですが,まず,抗がん剤の仕組みと,人体に備わる修復機能は以下のようになっています。

  • がん細胞は細胞増殖が早い。
  • 細胞分裂と増殖を防ぐために,DNA損傷を起こさせるのが抗がん剤(プラチナ製剤)
  • 副作用としては,がんと同様に細胞増殖の早いリンパ球などの免疫細胞も破壊される
  • 人体にはDNA損傷を発見して修復させるスイッチのような酵素PARPと呼ばれるものがある
  • PARPという酵素がDNA損傷を修復してしまうと,がんが再発する!

抗がん剤が,目標とする都市を破壊する「爆撃機」(免疫細胞もまとめて破壊)だとするなら,PARP人体に備わった火災警報機のようなものだと考えればよいでしょう。DNA損傷は多くの生物にとって致命的なので,多くの場合は修復するのが正しいです。ただし,がんという特異的な細胞を除いては。

そこでテサーロ(TSRO)やアストロゼネカ,クロービス・オンコロジー(CLVS)などの各社は,火災警報機であるPARPを無力化してやれば,無事ターゲットであるがん細胞を爆撃しつくせると考えたわけです。狙いは正しい,あとは撃つのみ。

そして,10月8日のジャーナルにフェーズ3臨床試験の結果が公開されたわけですが,結果はすばらしいものでした。

先ほどのAASJから引用すると

この治験では、すべてのステージの卵巣癌(1or2期を10%前後含むが、ほとんどは3期以上)で、プラチナ製剤による化学療法で反応が見られた患者さんを選び、8週以内にPARP阻害剤ニラパリブ300mg、1日2回投与を続け経過を観察、ガンの進行が抑えられるかを評価している。また、治験途中で亡くなった場合、その原因を問わず再発例として扱っている。治験は偽薬を用いた無作為化二重盲検法で、再発の判断も主治医以外が行うという完全なものだ。

さらに患者さんを、遺伝的なBRCA遺伝子の変異を持つかどうかで分けて効果を評価している。BRCAが欠損すると相同組み換えがうまくいかないため、この薬剤の効果がより高くなると想定されるためだ。さらに、遺伝的BRCA変異がないケースも、がん細胞の相同組み換え機能を確かめる検査を行い、この機能の有無で薬剤の効果に違いがあるか調べている。すなわち、将来ニラパリブの効果を前もって予測できるかについても検討している。
結果はめざましいもので、最初からBRCA遺伝子に変異を持つ群でみると、偽薬群では5.5ヶ月で再発したのに対し、21ヶ月再発が起こらない。また、遺伝的BRCA変異がなくとも、相同組み換え機能が欠損しているガンでみると、再発までの期間が偽薬群の3.8ヶ月に対し、12.9ヶ月だ。もちろん、相同組み換え欠損がない場合でも一定の効果があり、偽薬群の3.9ヶ月に対し9.3ヶ月に伸びている。

この申し分ない結果から判断すると,FDAの承認はほぼ間違いなく数ヶ月以内に下りるでしょう。これまで不安に悩まされながら応援を続けてきた投資家の皆さんにとっては,これからが本番です。

遺伝子診断サービスというハイエナ

今回のニラパリブに関してさらに要注目なのは,遺伝子診断サービスという事業と投薬効果がセットでビジネスになりつつある機運を確認できたためです。

それは,PARP阻害剤の効果は遺伝的BRCA変異の有無によって2倍ぐらいの効果の差があることが分かっており,そのため,FDAの判断如何によっては「ニラパリブを投与すべきかどうかは,事前に遺伝子診断で効果があると判断された患者に限る」べきだというようなお達しが下される可能性がありました。

その遺伝子診断サービスというのがくせ者なのです。

実はテサーロはミリアド・ジェネティックスと呼ばれる遺伝子診断サービスと提携しています。そして,このミリアドがやっかいな会社であり,2013年にはDNA診断の検査方法に関する特許を申請し,独占し,法外な金をふんだくる悪徳企業だったのです。(#米国にはよくあるケースですが。)

日本弁理士会より

Myriad 社は BRCA1,BRCA2 遺伝子配列,及びそ
れらの変異検出による乳癌,卵巣癌に罹患する可能性
についての検査方法の特許を取得した。そして他社へ
の特許の実施は認めず,遺伝子検査事業を独占実施し
た。検査料金は高額であった。Myriad 社は BRCA1
遺伝子,BRCA2 遺伝子の塩基配列を軸に,遺伝子の
配列に関する特許をもとに独占的な診断ビジネスを展
開してきた。低所得者は診断技術の恩恵に被ることが
できないという事情が生じた。このことが大きな社会
的な問題となり,遂には米国自由人権協会(ACLU)
によって,BRCA1 および BRCA2 遺伝子の特許無効
の訴えがニューヨーク州南部地区米連邦地裁に提訴さ
れるという事態に至った。

最終的に本案権は係争中で,ミリアドのBRCA遺伝子診断サービスは独占状態が続いています。(同業他社はミリアドから訴えられているため)

このBRCA遺伝子診断こそが,ニラパリブの効果を予測する上で鍵となる診断なので,下手するとミリアド社は濡れ手に粟でボロもうけをする可能性がありました。

幸いにして,今のところはニラパリブはBRCA遺伝子変異がない患者にも一定の効用が認められており,おそらく遺伝子診断とセットで投薬ということはないと思います。よって患者さんの金銭的負担は抑えられ,ハッピーな結果になるんじゃないかと期待しています。

医薬品セクターは蛇やハイエナのように,新薬を開発した企業の周りで収益をかすめ取ろうとする悪徳企業がうようよしています。間違ってもそうした企業に投資しないようにしましょう。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です