カミンズ(CMI) 企業分析
カミンズ(CMI)はディーゼルエンジン専業メーカーです。大型トラック用ディーゼルエンジンを開発していることもあり,昨今のドル高と資源輸送をはじめとする輸送セクターの冷え込みによって,業績は低迷しています。
株主還元の姿勢は前面に押し出しており,配当銘柄としてみた場合に非常に魅力的なのですが,技術的な優位性はさほど感じられません。どちらかというと,業界特有の規制(トラックの排ガス規制など)による参入障壁に守られているように感じます。
販売部門・アフターサービス部門を買収により強化することで,市況株でありながらサイクリカルな影響を極力減らそうとしている経営陣の姿勢は間違っていないと思います。(部品交換や保守点検などのアフターマーケットは不況でも回り続けるため,業績の下支えになります。)
とはいえ,さすがにヘビー・デューティートラック市場が28%ダウンといったことが数年周期で訪れるので,いかに平準化を目指したとしても舵取りが難しい企業の一つだと思います。投資家(予想屋)泣かせの銘柄ですね。
目次
企業ホームページ
セクター
資本財・サービスセクター(機械)
企業概要
カミンズ(CMI)は1919年操業のディーゼルエンジンの専業メーカーで,世界最大級です。部品から最終製品までが垂直統合された日本のトラックメーカーとは異なり,米国では車体とエンジンは別々に開発し組み合わせて製品にするという分業型となっているため,カミンズはエンジンのOEM供給元としてシェアを獲得しています。主要な顧客のセクターはトラック,RV(レクリエーショナル・ビークル),バス,船舶,鉄道などです。(鉄道についても,日本や中国では電車が主流なのに対して,米国では鉄道は貨物輸送のためのディーゼル機関車が依然として主流を占めています。)
顧客企業はダイムラー,フォード,ボルボほか多数あります。また天然ガスエンジン・エンジン部品等も製造販売しています。
米国企業であることから排ガス規制への対応は進んでおり,今後,中国やインドでも欧米並みの厳しい排ガス規制が課されるような事態になれば,カミンズ(CMI)が有利な立場となります。(現行の製品ですでに中国やインドの基準値よりも遙かに厳しい基準をクリアできているため。)
経営陣
CEO:トム・ラインバーガー
規模
従業員数:
拠点:世界190カ国(提携するディーラー含む)自社ディストリビューターは600カ所,提携ディーラーは7200社。
地域別売上:
近況
地域別の需要サイクルでいうと,北米市場がピークアウトしかかっている状態です。北米はカミンズの売上の半分を占める重要な地域であるため,インド・欧州などの回復が間に合わない場合は業績下落圧力となります。
セグメント
カミンズ(CMI)は以下の4つのセグメントを抱えています。
売上 | 備考 | |
エンジン部門(Engine) | 全体の42% | ディーゼルエンジンの製造を行う。 |
販売部門(Distribution) | 全体の26% | 部品の販売およびアフターサービスを担う。 |
部品部門(Components) | 全体の21% | ターボチャージャー,排ガス対策,フィルター,燃料システムなどの部品の製造を行っています。各国の規制に合わせた対策部品という感じですね。 |
発電部門(Power Generation) | 全体の11% | 自家発電装置の製造を行っています。発電部門は最も新興国売上比率が高い部門です。というのも,電力供給が安定しておらず瞬間的・一時的な停電が日常的に起きているため,インドや中国,アフリカなどでは非常電源としてカミンズの発電機を使っています。 |
発電部門で製造しているのは工場や旅館などで使う業務用自家発電装置です。
エンジン部門
エンジン部門の売上は2011年以降横ばいから下降気味です。主にドル高が影響しています。
販売部門(Distribution)
販売部門の売上はここ10年右肩上がりで上昇を続けてきました。最近でも販社を買収するなどして,コストシナジーを求めつつ販売部門の売上・利益率の改善に力を入れています。販売部門では修理・点検などのサービスも行っており,そうしたサービス部門は景気の影響を受けづらいと言うことでしょう。
部品部門
部品部門の売上も右肩上がりで上昇しています。
発電部門
発電部門は売上・利益率ともに下降しています。
市場
北米トラック市場でのシェアは圧倒的で78%(ミディアム・デューティー),34%(ヘビー・デューティー)に上ります。またインドのトラック市場でもシェア42%と高いいです。世界最大のトラック市場である中国ではシェア17%とまだまだ低いですが,これはローカル競合が多いためでしょう。中国では合弁会社(ジョイントベンチャー)にてディーゼルエンジンの現地生産を行っています。
市場規模はヘビー・デューティートラック市場が2015年比で-28%もの大幅縮小が予想されており,2016年を通じて業績は厳しいことが予想されます。唯一上向いているのはインドのトラック市場です。カミンズは海外展開を推進してきたことで,各地域別のサイクリカルな需要の増減を平準化しようとしてきましたが,2016年はマイナス要素の方が大きいです。
競合状況
ディーゼルエンジンの競合はトヨタ,ユーチャイ,フィアット,ダイムラー,フォルクスワーゲンほか,多数の強豪がひしめき合っています。世界的に見れば競争は極めて厳しいと言えます。もちろん,競合といえどもカミンズはOEMメーカーなので競合の車体用にエンジンを製造するといった提携関係はあるので血で血を洗うような厳しい状態ではないと思いますが。(競合ダイムラーやボルボにはエンジンを納品している)
2位のYuchai(玉柴機器)は中国のディーゼルエンジンメーカーですね。
こうした厳しい競合状況の中で,カミンズ(CMI)の製品の差別化ポイントは何かというと,正直これと言って技術的な差別化要素は少ないです。製品性能は横並びで,排ガス規制(エミッション対策)について他社よりもいくらか先行しているという感じではないかと思います。
シナリオ(SWOT)
機会 | 脅威 | |
強み | 新興国の排ガス規制強化
輸送需要回復(資源高など) ドル安 |
|
弱み | 輸送需要減退
ドル高 新興国の電力インフラの安定(発電機が不要になる) |
最近のマーケット状況
25年チャート
2009年のリーマンショック後の安値のときは株価が$64から$16へと1/4まで下落しました。約1年で元の水準まで回復はしていますが,それだけの乱高下は覚悟する必要があります。
5年チャート
2015年後半にかけて売上減退・EPS減少の影響で大きく売り込まれ株価は2014年の高値から約50%下落しました。2016年に入り,原油価格の復調に伴って株価は1.5倍の$120へと大きく反発しています。
日足チャート
2016年以降は強いの一言です。一つには,資源相場(ゴールドや銅など)が底打ち反発を見せたことで,資源運搬用(mining)のトラック需要が回復すると見込まれているからです。ただ,短期的にはそこまで大きな業績回復は期待できないと思いますので,期待先行での上げだと思います。また,配当利回りが高くなっていることもあり,配当狙いで短期の株価をあまり気にしない投資家も多く参入していると予想されます。
10年ファンダメンタル分析
10年ファンダメンタル レーダーチャート
10年〜20年スパンで業績を眺めると,カミンズの売上・EPSは緩やかな上昇基調ですし,利益率が改善していることからも経営努力(主としてコスト削減)が伺えます。ただし,直近5年では成長力評価が0点にまで落ち込んでしまっています。業績を買わずに,配当と自社株買いを手がかりに買い進めるしかないような状態ではないでしょうか。
10年ファンダメンタル 得点表
グロスマージンは25%程度とあまり高くありません。エコノミックモートもNarrowとなっているとおり,差別化要素は排ガス規制頼みであり,製品価格決定力という意味ではあまり強くないことが伺えます。
ただ,財務的には何ら問題はなく,配当についても増配余地は十分,自社株買いも行う余裕は十二分にあります。バリュエーションは明らかに割安ですので,短期の業績を気にしないスタンスであれば,ありな銘柄なんだと思います。
5年平均 | 5年スコア | 10年平均 | 10年スコア | |
配当株総合評価 | 202 | 249 | ||
グロース株総合評価 | 非該当 | 非該当 | ||
グロスマージン(粗利率) | 25.4% | 24 | 24.7% | 16 |
営業キャッシュフローマージン | 11.5% | 0 | 9.7% | 0 |
株主資本利益率(ROE)平均値(Net Income/Equity) | 21.6% | 15 | 23.3% | 15 |
有機的成長率(ROE x 内部留保率) | 15.2% | 6 | 19.9% | 6 |
無機的成長率(BPS成長率) | 10.3% | 2 | 13.2% | 2 |
収益力評価 | 47 | 39 | ||
営業キャッシュフロー増加率 | -0.1% | 0 | 9.4% | 20 |
フリーキャッシュフロー増加率 | -2.0% | 0 | 8.9% | 24 |
EPS増加率 | -3.9% | 0 | 8.2% | 21 |
成長力評価 | 0 | 65 | ||
自己資本比率平均値 | 49.1% | 30 | 46.0% | 30 |
流動比率(流動資産/流動負債) | 225.2% | 40 | 199.8% | 30 |
クレジット格付け | 15 | 15 | 15 | 15 |
財務健全性評価 | 85 | 75 | ||
平均配当利回り | 2.0% | 14 | 1.7% | 14 |
自社株買い利回り | 1.7% | 8 | 1.2% | 8 |
配当金増加率 | 21.6% | 28 | 26.7% | 28 |
配当性向(増配余地) | 28.1% | 0 | 20.8% | 0 |
株主還元評価 | 50 | 50 | ||
ブランド力 | 0 | 0 | 0 | 0 |
エコノミック・モート | Narrow | 20 | Narrow | 20 |
定性的評価 | 20 | 20 | ||
機関投資家比率 | 85.0% | 6 | 85.0% | 6 |
機関投資家の売買動向 | -2.4% | 2 | -2.4% | 2 |
インサイダーの売買動向 | -5.6% | 4 | -5.6% | 4 |
現在の株価 | 77.9% | 12 | 77.9% | 12 |
現在のPER(Forward) | 14.35 | 12 | 14.35 | 12 |
現在の配当利回り | 3.4% | 16 | 3.4% | 16 |
(配当+自社株買い)利回り | 4.0% | 8 | 3.0% | 8 |
疑似債権成長率 | 22.3% | 4 | 22.3% | 4 |
直近株価評価 | 64 | 64 |
10年分析グラフ
北米の景気回復に押されて2009年からの5年間で売上が2倍にまで成長しました。こうした市況株の特徴として,売上が反転し始めると不景気の時にリストラを行った効果で利益率が急上昇します。
また財務管理はしっかりしており,業績が悪い時期でもフリーCFを確保できています。倒産を心配するような会社ではありません。
大きなニュースがないままに市場に流されて株価が大きく動きやすい銘柄ですので,あくまで配当狙いと割り切って投資するのがよいと思います。
優良銘柄の条件
優良銘柄の条件 | 結果 | 判定 | 備考 |
条件3:他社と差別化できる優れた新製品を持つ | 差別化できそうなのはエミッション対策部品(Component)。エンジンは差別化要素少ない。 | × | |
条件5:主力製品の市場が長期的に拡大し続ける余地がある | 景気の影響で大きく拡大縮小を繰り返す。 | × | |
条件10:売上,営業キャッシュフロー,フリーキャッシュフロー,EPSのバランスがよい | 利益率低い。 | × |