マイクロソフト(MSFT) 企業分析

マイクロソフト(MSFT)はインテル(INTC)と提携することで,1980年代〜2000年代にかけてPC市場で独占的地位を築いていましたが,頼みのPC市場は縮小傾向にあります。PC出荷台数は2010年にピークアウトし,マイクロソフトとインテルの両者は巨大な地盤沈下に見舞われています。

WinTel market share

アマゾン(AMZN)やセールスフォース(CRM)の隆盛を見れば分かるとおり,時代の流れはモバイルコンピューティングとクラウドコンピューティングに向かって不可逆的な変化を遂げつつあります。2010年以降は,IBM(IBM)やアルファベット(GOOGL)といった企業はどこも異口同音に「モバイル・ファースト,クラウド・ファースト(さらにAIファースト)」を目標として掲げていますが,マイクロソフトも同じ土俵で熾烈な競争を行っています。

■リンクトイン

2016年6月13日には$26.2Bという巨額の現金でリンクトイン(LNKD)買収を行うことを発表しました。発表直後には相場は大きく揺れましたが,その後2週間のニュースを見てみるとマイクロソフトの狙いが徐々に明らかになり,ビジネスクラウド業界が顧客のビッグデータ獲得に血眼になっている様が透けて見えました。

一般顧客をターゲットとするフェイスブック(FB)やアルファベット(GOOGL)が”広告宣伝媒体としての効果を最大化するために”顧客ビッグデータを収集する構図と,法人顧客をターゲットとするセールスフォース(CRM)やマイクロソフト(MSFT)が”法人顧客間の結びつきを最大化するために”顧客ビッグデータを収集する構図が重なって見えます。

どちらも人と人,人と情報をいかに効果的にマッチングさせるかという技術的課題に取り組んでいます。膨大なデータから「弱い結びつき」「強い結びつき」を推論するという計算科学的テーマは,2016年現在のレベルの機械学習(弱いAI)のテーマとしては簡単すぎず,難しすぎず,規模も大きくちょうど良いということでしょう。力技でそこそこ確実な成果が見込めるターゲットだからこそ,各社が巨額の資金を投じているのだと思います。おそらく今後数年間は類似の買収や企業再編が相次ぐでしょう。

■CEOとオープン化

現在のCEOであるナデラ氏は,マイクロソフトの旧態依然としたクローズドで排他的な開発体制に危機感を抱いており,2014年のCEO就任以降,様々な改革を成し遂げてきました。例を挙げると,セールスフォース・ドットコム(CRM)とマイクロソフトのソフトウェア間でデータを相互利用できるような提携など,以前のマイクロソフトでは考えられなかったライバルとの提携による利便性向上です。

効果がいつどういう形現れるかどうかは未知数ですが,インターネットの世界的な普及によって,かつて無いほど「ネットワーク効果」の価値が重要性を持っている今,ナデラCEOの戦略は間違っていないと思います。

もちろん,自社独自のネットワークで数億人の顧客を獲得できれば,それがベストなのですが,クラウド市場のように立ち上がりつつある市場で,まだまだ複数企業がシェア争いでひしめいている状況では,下手にクローズドにしてシェアを失うことは「ネットワーク価値」として命取りです。ネットワークは人が多いからこそ価値を持つものなので,他社と相乗りしてでも顧客の輪を広げておかないと,「死んだノード」になってしまいかねません。そういう意味で,ビジネスクラウド首位のセールスフォースを組むのは正攻法でしょう。

また,開発畑出身と言うだけあって,ナデラCEOはデベロッパーにとってのマイクロソフト・プラットフォームの価値をよく理解していると思います。OS Windows,マイクロソフト・オフィスなどと同じく,クラウドもプラットフォーム屋が儲かる商売です。そして,どのプラットフォームが成功するかは,多くのサードパーティーのデベロッパーを獲得できるか,デベロッパー含めたエコシステムを築けるかどうかに掛かっています。(アップルのAppStoreがサードパーティー・デベロッパーに開放されたのも,アップル自社開発アプリだけでは開発能力の限界があり,価値を生み続けられないからです。)今回買収したリンクトインというネットワークは,マイクロソフトのプラットフォームの中で,ビジネスマン同士のコラボレーションを支援し,ビジネスを効率化させるという点での付加価値をもくろんでいると思います。(意地悪な見方をすれば,ジョージ・オーウェルの”Big Brother is watching you”みたいな感じで,あらゆる端末からSkype履歴等が抜き取られ,人間関係や行動が筒抜けと言うことになりかねないですが。)

企業ホームページ

Microsoft

セクター

情報技術(ソフトウェア)

企業概要

マイクロソフト(MSFT)は1975年創業のソフトウェア大手です。1980年代にIBM互換 PC向けソフトウェアの開発請負からスタートしました。1990年代にWindowsによってOS市場を,Officeによってビジネス文書ソフトウェア市場をそれぞれ独占することに成功しました。現在もPC向けOSで9割のシェアを保っています。

コア事業であるOS,オフィス以外では,ゲーム機への参入(Xbox),タブレットへの参入(Surface),携帯端末への参入(ノキア),ゲーム市場での買収(マインクラフト製造元のMojang社買収)など,様々な事業への参入と撤退を繰り返しており,必ずしも事業の多角化に成功しているとは言い難い状態です。

近況

2015年から2016年にかけて最大7800人のリストラが実施される予定です。解雇されるのは主として携帯電話事業(ノキア)です。

経営陣

CEO:サティア・ナデラ

規模

従業員数:118,000(60,000は米国。58,000は米国外)
拠点:世界100カ国

セグメント

部門 2015年売上 内容 競合
D&Cライセンス部門
(Device and Customer)
$15.0B OS,オフィスのライセンス提供 アップル(AAPL),アルファベット(GOOGL)
コンピューティング・ゲーミング端末部門 $10.2B Xbox,Surfaceタブレットの販売 ソニー,任天堂,アップル
電話部門 $7.5B Lumiaフォン アップル,サムスン
D&Cその他 $8.8B Bing,MSN,広告事業,ゲームソフト事業 アマゾン,アップル,グーグル
法人ライセンス部門
(Commercial Licencing)
$41.0B Windows Server, SQL Server,Visual Studio,Office For Business,法人向けWindows,Dynamicsなどのライセンス提供。 IBM(IBM),オラクル(ORCL),ヒューレット・パッカード(HPQ),SAP,レッドハット
法人その他
(Commercial Other)
$10.8B 法人向けクラウド,Office 365,マイクロソフトAzure,Dynamics CRM Online,などの提供。 セールスフォース(CRM),アマゾン(AMZN),グーグル,IBM,オラクル

セグメント

D&Cライセンス部門

Windows OEMのライセンス売上が2015年にはYoYで15%減少しています。主としてPCの売上不調が響いています。

法人その他部門

Office 365やMicrosoft Azureなどの法人向けクラウドが成長を遂げているおかげで,売上がYoYで44%増加しています。

最近のマーケット状況

25年チャート

ITバブルの余波でここ十数年は株価が横ばいでした。2011年以降(よりによってPCの売上が頭打ちしてから)マイクロソフトの株価は上昇基調を取り戻しています。

msft-25yr-chart20160624

5年チャート

$45あたりに大きな出来高の山があります。ここが下値抵抗線になると思います。

msft-5yr-chart20160624

日足チャート

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10年ファンダメンタル分析

10年ファンダメンタル レーダーチャート

収益力・財務安定性・定性評価(ブランド力・モート)などはほぼ満点です。それもそのはず,多くの企業ではWord, Excelを使わないと仕事にならないですし,さらに最近で言うとOffice365によりメールやビデオ会議などについてもマイクロソフトのソフトウェアに頼りっきりの状態が強化されているからです。法人部門ではマイクロソフトの天下は揺るぎないでしょう。

ただし,ファンダメンタル的な弱点はWindowsのOSとしての旬が過ぎてしまっていることです。特にPCの売上減少に伴うWindows OS OEM提供のボリュームがYoYで20%程度減少するようになってしまい,数年に一回新しいOSにバージョンアップする更新料でがっぽり稼ぐというビジネスモデルが徐々に崩れています。このビジネスモデルは90年代以降,マイクロソフトの柱であっただけに,懸念は残ります。

また,成長性という意味でも携帯電話に手を出したりしたせいもあって,投資CFの無駄遣いやリストラ費用の計上など本業とは異なる部門がCFや利益を圧迫する傾向が続いています。マイクロソフトだからこそ,これらのダメージにもかかわらず全体的な収益や財務体質は揺らいでいませんが,小型企業であれば何回か倒産の憂き目を経験してそうなぐらい,本業以外の投資では失敗しています。

今回のリンクトインがマイクロソフトに欠けている成長性というピースを埋めることに成功するのかどうかが大きなポイントです。

株主還元に関しては,最近では配当性向が上がってきており,昔よりは無駄な投資を控えて株主還元をまじめに行うようになっていると感じます。下手に色気を出さずに莫大なCFを還元してくれるだけで,多くの株主にとっては満足な企業になるのではないでしょうか?(もちろん,これだけの優秀な社員と強力なブランドを持っていれば,さまざまな新しいビジネスチャンスを開拓したくなるのは理解できますが,そういう起業家的な色気はグーグルやアマゾンなどの方が二枚も三枚も上手です。)

10年ファンダメンタル 得点表

なんと言っても10年平均で78.4%のグロスマージンは驚異的です。増配率も年率14%程度と順調な増配を続けており,連続増配銘柄としてもまだまだ10年〜20年は増配を期待できると思います。ただし,自社株買いに関してはあまり行っていません。

財務に関しては文句なしで,ありあまるキャッシュフローの使い道に困るぐらいです。(リンクトインの買収も余裕の現金決済です。)

5年平均 5年スコア 10年平均 10年スコア
配当株総合評価 351 403
グロース株総合評価 非該当 非該当
グロスマージン(粗利率) 74.0% 32 78.4% 32
営業キャッシュフローマージン 37.1% 28 36.4% 28
株主資本利益率(ROE)平均値(Net Income/Equity) 27.5% 20 34.3% 20
有機的成長率(ROE x 内部留保率) 16.7% 6 23.5% 9
無機的成長率(BPS成長率) 10.5% 2 10.9% 2
収益力評価 88 91
営業キャッシュフロー増加率 1.5% 10 7.3% 20
フリーキャッシュフロー増加率 -1.3% 0 6.1% 24
EPS増加率 -11.3% 0 2.1% 7
成長力評価 10 51
自己資本比率平均値 52.5% 40 52.3% 40
流動比率(流動資産/流動負債) 260.3% 40 234.3% 40
クレジット格付け 20 20 20 20
財務健全性評価 100 100
平均配当利回り 2.7% 21 2.6% 21
自社株買い利回り 0.8% 4 2.4% 12
配当金増加率 14.7% 28 13.5% 28
配当性向(増配余地) 38.3% 0 27.5% 0
株主還元評価 53 61
ブランド力 95 60 95 60
エコノミック・モート Wide 40 Wide 40
定性的評価 100 100
機関投資家比率 73.0% 4 73.0% 4
機関投資家の売買動向 -1.4% 2 -1.4% 2
インサイダーの売買動向 -5.1% 4 -5.1% 4
現在の株価 84.5% 12 84.5% 12
現在のPER(Forward) 17.18 8 17.18 8
現在の配当利回り 2.9% 12 2.9% 12
(配当+自社株買い)利回り 3.9% 8 4.4% 12
疑似債権成長率 26.4% 4 26.4% 4
直近株価評価 54 58

10年分析グラフ

成長性に乏しいながらも圧倒的な収益力なのが一目で分かります。売上の13%に相当する$12B(1.2兆円)もの研究開発投資を行っていますが,それでもびくともしないフリーCFのすさまじさ。この何もしなくても手に入る巨額の収益と多額の研究開発費こそが他社を寄せ付けないエコノミック・モートの源泉です。
ROE, ROAなどの利益率は2010年以降,PC不況とともに下がってきてはいます。(プラス収益性の低いノキアの買収が響いています。)とはいえ,売上自体は買収効果により伸びており,リンクトイン買収によりさらに売上の規模自体は拡大します。

人気企業だけに投資家のハードルも高く,コンセンサスをクリアし続けるのは難しいと思いますが,当面の間ソフトウェア企業の中では最も安心できる業績を上げ続けることは間違いないでしょう。まさに王者です。

msft-10yr-analysis

優良銘柄の条件

優良銘柄の条件 結果 判定 備考
条件3:他社と差別化できる優れた新製品を持つ Office365,Azureは強力な製品。ただし,OS市場においては存在感が無くなってきている。
条件5:主力製品の市場が長期的に拡大し続ける余地がある 世界のIT化が続く限り市場は拡大する。
条件10:売上,営業キャッシュフロー,フリーキャッシュフロー,EPSのバランスがよい 景気の影響を無視できるぐらい強固な収益基盤を有する。バランスも完璧な美しさ。増配余地も十分。

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